智頭急行がこうした自然の魅力と鉄道を組み合わせた企画を実施しているかと言えば、ほとんどないと言っていいだろうが皆無ではない。「恋駅プロジェクト」はその1つと言っていいだろう。
これは若者向き企画で、智頭駅の1つ手前の駅に「恋山形(こいやまがた)」という名前の駅がある。なんだ今流行りの「恋する〇〇」かとバカにしてはいけない。流行りであれ、二番煎じであれ、集客が見込めるものは利用した方がいいし、利用すればいいのだ。ただ実行する場合は中途半端ではなく、徹底することだ。
「恋山形駅」は開業当初(1994年)「因幡山形駅」と名づけられる予定だったが、地元の要望で「来い山形」をもじって「恋山形駅」に決まったという経緯がある。このように地元の要望で決まった駅名は他にもあり「宮本武蔵駅」もそう。当初の予定では「武蔵駅」になるところだったようだ。
全国的に見ても長い駅名は少ない。長いとアナウンスでも言いにくいし、覚えにくい。だが「武蔵駅」ならどこでもありそうな駅名だが「宮本武蔵駅」と聞けば、ここが宮本武蔵と関係がある地域(武蔵の生誕地説は複数個所あるが、一般的によく知られているのはこの地域)と分かる。
現在、恋山形駅は<恋がかなう駅「恋山形駅」>というキャッチフレーズで売り出し、駅舎をピンクに塗り、ホームにはハート形に「恋」の字を入れたモニュメントがあり、その周囲に同じくハート形の絵馬を吊り下げられる恋神社(?)らしきものや、ピンクに塗られた「恋ポスト」を配置するなど、駅はピンク一色。
このポスト、単なる飾りではない。投函された恋文は毎週月曜日に回収して近くの山形郵便局に届けられ、ハート形の消印が押されるというから、なんとも粋な計らいをするものだ。
駅舎がピンク色に塗られたのは2013年の「恋駅プロジェクト」がきっかけ。全国に「恋」の字が付く駅名を持つ4社(智頭急行・恋山形駅、JR北海道・母恋駅、三陸鉄道・恋し浜駅、西武鉄道・恋ヶ窪駅)の共同プロジェクトで「恋駅きっぷ」を限定販売したのが最初。その後、駅舎をピンクに塗り替え、恋ポストを配置し、駅前の道路を「恋ロード」と名付けてピンク色に塗るなどの整備を行っている。もちろん春になるとピンク色の芝桜も咲く。
昨年は「恋の待<愛>室」を整備し、自販機が置き、飲料水のほかにハート形絵馬や駅名が入ったハート形のキーホルダー、恋愛成就のお守りなども買えるようにしている。
同社は2014年春のダイヤ改正で恋山形駅での停車時間を5分に拡大した列車も走らせているし、私が乗った列車も恋山形駅で5分停車する列車だったが、もう少し停車時間があれば駅で記念撮影もできるのではないか、と考えながら城平守朗(じょうひら もりあき)社長に取材していると
「実は3月から恋山形駅をもっと知ってもらい、愛される駅になってもらいたいという思いから、一部の列車ですが停車時間を25分に拡大」したと教えられた。
なんと2019年春のダイヤ改正で、土休日に上下線各1本を同駅で25分間停車させるようにしていたのだ。まさに「恋列車」。いっそ、そう名付けて走らせればもっと面白いのではないか。
アイデア溢れる智頭急行
「智頭」という文字は「かしこいあたま」を意味する。だからというわけではないだろうが、同社にはアイデア溢れた柔軟な取り込みが多い。駅舎をピンクに染めるなどという発想は若い社員でなければ出てこないだろうが、若者だけでなく高齢化社会に合わせたユニークな企画もある。
同社には様々な割引切符があるが、注目したいのは「楽ラクきっぷ」と「優ユウきっぷ」。
「楽ラクきっぷ」は70歳以上を対象にした、普通列車の回数乗車券で通常3000円の回数乗車券(100円券33枚綴り)が2500円で購入できるというもの。
「優ユウきっぷ」は車の運転免許証を自主返納した人を対象にしており、通常3000円の回数乗車券(同)を1500円で購入できる。いずれも乗車できるのは普通列車に限るが、これはユニークかつ今後ますます必要なサービスである。
(5)へ続く
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