いままで自動車各社がリコールを発表するのをよく見聞きしてきた。でも、それは私にとって他人事(ひとごと)だった。それが、まさかリコールの対象になるとは。その時にはじめて「災害」は他人事ではなく誰にでも起こりうることなのだと思い知らされた。例え100年に1度、300年に1度起こりうるかどうかの災害でも備えはしておくべきだと。南海トラフ地震に至っては30年以内に起きる確率が80%と言われているのだからなおのことだろう。
私は持ち物にあまり拘る方ではない。だから車もメーカーや車種、新車、中古車、内外装などへのコダワリはない。逆に、亡くなった弟は車に対するコダワリは強かった。弟の車にはたしかに便利そうな機能や装備が付いていたが、いずれもなくて困る装置ではなく、私にはどうでもよかった。むしろウインドーの上げ下げは自動ではなく手回しに戻して欲しいくらいだ。そうすれば首を挟んで怪我する事故もなくなるだろうし、水没、雪没その他で電気系統がダメになっても窓を開けて脱出することができる。
かなり昔になるが、宮崎にあるホンダロックという企業を取材した時のことだ。サイドミラーの角度を手動式だが動かす装置は当社で作っている、と当時の社長から聞かされたが、なんのことか即座に理解できなかった。当時、私が乗っていた車はサイドミラーの角度を調整するためには車から降りて、それこそ手動で調整していたから「手動リモコン」と聞かされてもピンとこなかったのだ。
取材の帰り道、同行者から「栗野さん、どんな車に乗っているんですか」と笑われたが、いまの車はそんなに進んでいるのかと驚いたものだ。その当時、すでに「手動リモコン」を通り越し、電動式でサイドミラーの角度調整機能はほとんどの車についていたようだ。
とにかく、「車は走ればいい」と私は思っていたから、メーカーや車種、いわんや内装、備品に対する拘りはあまりない。
こう言うと、そう言いながらBMWに乗っているのはなぜだ、と言われそうだが、別に大した理由はない。たまたま手頃な価格であったから買っただけで、別にBMWを探していたわけではない。なんといってもディーラーの店頭で100万円で買ったのだから。もちろん中古価格である。
以来、BMWに惚れた。だから2台目もBMWにした。惚れた理由は長距離運転での疲れにくさとコーナリングの安定感だ。特に1台目のクーペはほとんどのスイッチがダイヤルのアナログ調整で、余分なものは付いてなくシンプルだった。それがムダを排し合理性を重んじるドイツ人好みと思え、私の好みでもあった。
だが、いまのドイツ車は日本人好みというか、世界の潮流なのか、お節介を通り越した至れり尽くせりになっている。機械は複雑になればなるほど扱いにくくなるというのに。
車にコダワリはないと書いたが、正確に言えばないことはない。まずブレーキの効き具合にはコダワル。これは人によって好みが分かれるだろうが、私は浅めの踏みで効く方が好きだ。深く踏み込まないと効かないブレーキは怖くて仕方ない。アクセルも少し重めぐらいの方がいい。これは慣れの問題かもしれないが、いまでは国産車に乗るとハンドル、アクセルの軽さに怖さを覚えてしまう。
内装や備品は二の次にして、長距離を安全かつ快適に走ってくれる部分にはかなりコダワル。だからちょっとした異音や異常を感じれば自動車工場に持ち込み点検してもらっている。部品交換も結構してきたし、昨年はラジエターまで交換したので、私の車は現在「ほぼ新車」状態。しかも高速道路を定期的に走っているからエンジンの調子もいい。それがまさかのリコール対象になるとは思っても見なかった。
1月下旬、ディーラーから1通の封書が届いた。その時は帰省して田舎に滞在中だったので、開封して中を読んでもらった。どうせ何かの案内だろうと思ったが、いつも届くパンフレットや案内書ではない封書みたいだと言われたからだ。
「リコールのご案内と書かれている」と聞いても、ああ、皆に出しているんだろう、と答えていた。だが、対象車のナンバーが書かれている、と言われ、そこに書かれているナンバーを読み上げてもらうと、それは間違いなく私の車のナンバーだった。
そこで初めて事態を認識したが、次に湧いてきたのはどこが問題なのかという疑問だ。それは緊急性を要するものなのかどうか。福岡に帰った後でディーラーに持ち込んでも大丈夫なのか。福岡まで500km余り走行できるのか、できないのか。
以下に記された「基準不適合内容」を引用してみる。
<エアコンディショナーのブロワーファンレギュレーターへ電力を供給するワイヤーハーネスの端子において、当該端子のメッキ素材が不適切なため、車両振動によってメッキが損傷し、摩擦腐食が発生することがあります。そのため、電気抵抗が高くなりワイヤーハーネスの端子が発熱し損傷して、最悪の場合、火災に至るおそれがございます。>
作業内容は「全車両、ワイヤーハーネスを対策品に交換」する一方、「ブロワーファンレギュレーターに不具合のあるものは新品に交換」とのこと。
これを読んで思い出したのが韓国国内におけるBMW車の出火問題だ。あの時、BMWの発表は韓国国内だけで起きた問題で、それ以外の国ではそのような現象は起きていないというような説明だった。
しかし、普通に考えてある1国だけで起こりうる現象というのは奇妙な話だ。限られた地域、例えば極寒の地とか猛暑地域というのはあるかもしれないが、極寒の地の中でも特定の1国でのみ起こるというのは考えられないだろう。ましてや今は世界車の時代である。韓国で販売されているBMW車は韓国国内製造車ではない。日産車だってイギリスで製造している(イギリスのEU離脱に伴い日産はイギリスから撤退するらしいが)わけで、その国だけの現象というのはどう考えても妙な話だった。
そう思っていたが、その答えが今回のリコールで分かった。やはり韓国でのみ発生した特別な不具合ではなかったのだ。今回のリコール案内ではそのことには一切触れられてはいないが。私は目にしてないが、メディア発表はあったのだろうか。その際に韓国での火災との因果関係に対するコメントはあったのだろうか。なかったとすれば対応に不誠実さを感じる。
不誠実と言えばリコール通知後の対応にも感じる。帰福後数日経った1月末か2月初めにディーラーにリコールの件で連絡し、車の入庫日を決めようとしたところ信じられないような返答だった。
「現在、部品の入庫待ちで、部品が入庫次第順次」になる。「部品は2月中には入庫されると思う」。
言葉は丁寧な言い回しだったが、上記のような内容で、いつ修理できるか返答のしようがないというわけだ。
たしかにビー・エム・ダブリュー株式会社からのリコール案内書には「しばらくの間、対策部品の供給が限定的」になっているとは書かれていたが、同社が国土交通省にリコールの届け出をしたのは昨年12月19日である。それが「2月中には部品が入ると思う」としか言えないとはなんともいやはや。
もとはと言えば韓国国内での火災発生時にもっと徹底して調べていればこういうことにはならなかったのではないか。そんな不満を感じながら同社のホームページでリコール情報を見てビックリ。なんと2018年5月以降だけで10件も届けられていた。
この件数が他社と比較して多いのか少ないのか分からないが、数か月に一度、高速道路を長距離走行しているだけに途中で車両火災になったらと不安になる。
それにしても車メーカーはリコールに慣れ過ぎていないだろうか。リコールに至らないまでも定期点検その他の時にこっそり治している不具合も結構あるという話も聞くし。
メーカーは機能の押し付け的なてんこ盛りをやめ、我々も便利過ぎる社会から脱却し、多少の不便さを楽しむ社会へと舵を切る時ではないか。コンビニ社会から脱却し、不便さを享受すれば他者へやさしくなれるのだから。
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