「プロの意見を聞きたい」「専門家の意見を聞き、開発した」。中小企業が新商品を企画したり、開発する際によく耳にする言葉である。ところが、このように専門家や、商品を熟知しているはずのヘビーユーザーの意見を参考に開発したにもかかわらず、あまり売れなかったという例は案外多い。
一方的な思い込みではなく、ユーザーニーズを調査して開発したのに、なぜ売れなかったのか。そこには製造業の陥りやすい盲点がある。以下、具体例を上げながら見ていこう。
販売前に品切れになったコンデジ
カシオ計算機(以下カシオ)は先進的かつユニークな企業である。電卓やデジカメを現在のように普及させた立役者でもある。だが、開発した商品が発売前に品切れになり、販売停止にしたのは同社の歴史始まって以来だろう。
断っておくが、発売「直後」に品切れになったわけではない。発売「前」に品切れになり、以降の販売を停止したのだ。
そんなバカなと思われるかもしれない。実際、私自身がそう思った。まだ発売していないのだから、品切れなど起こり得ようはずがないし、ましてや販売停止にするなどありえない。にもかかわらず、同社は「発売前」に販売停止の案内を出したのだ。
この案内を見て、ほとんどの人がこれはカシオの販売戦術、さらに言えば宣伝戦術だと考えた。程なく追加生産するに違いないと。ところが、それから半年以上たった現在でも、店頭で見かけることはなく、追加生産販売の通知も出ないから、国内ではディスコン(discontinued、生産終了・製造中止・販売中止の意)になったと考えざるを得ない。
モノが売れずに困っている企業から見れば羨むような話というか、バカな話と思うだろう。明らかにチャンスロスなのだから。この商品、売り出し価格は2万円台だった。ところが現在、プレミアム価格の7万円台後半で国内販売されている。
この商品とはカシオのコンパクトデジカメ(以下コンデジ)「EXILIM EX-TR150」である。カシオのコンデジといえば高速撮影ができることで有名だが、この商品は「自分撮り」がウリである。
いまでは若い女性の間で当たり前のように行われている「自分撮り」だが、初めてその光景を見た時は何をしているのか即座には理解できなかった。カメラは目の前の光景を写し撮るもの、自分の記憶を記録に留めるものという既成概念があるからだ。カメラ歴が長い人ほどこの既成概念から抜け出せないものだ。
同じことはメーカー側にも言える。その業界で高いシェアを誇る企業ほど新しい動きに反発する。少なくとも鈍感である。「○○はこういう使い方(飲み方、食べ方)をするものだ」と、ユーザーを説得しようとする。ユーザーに学ぶのではなく。
こうして、枠にはめられたユーザーが「通」と呼ばれ(いまではマニアか)、その分野で多少なりとも持てはやされたが、デジタル社会で情報の一般化、共有化が広がり、玄人と素人の立場が逆転、あるいは境目がなくなり、市場では素人(一般ユーザー)の動向が商品の売れ行きを左右するようになった。
にもかかわらず、商品開発に当たってメーカーが重視するのは長年自社製品を愛用しているヘビーユーザーの声であり、ライトユーザー、初心者の声にはほとんど耳を傾けない。
結果、商品企画、商品開発で陥穽に陥ることになる。
(2)に続く
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