現場のショールーム化を
最近、作業工程や作業現場を見せる所が少しずつだが増えてきた。それでもまだ現場は見せない所の方が圧倒的に多い。見せない理由の一つは、完成された最もきれいな姿(商品)を客に見てもらいと考えているからだろう。ほかにも、作業工程や作業現場を見て幻滅されると困る。あるいは見学スペースがない、気が散って仕事にならないなどといった理由があるかもしれない。
だが最近、工場地帯の夜景見学ツアーが流行るなど製造現場や工場への関心が高まり、裏側を見せることで集客しようという動きも出ている。
製造現場のオープン化、工場のショールーム化について、私は以前から提唱しているが実施する所はほとんどない。提案には納得するが、それはあくまでも他者が行う、いわば他人事(ひとごと)の話として聞いているわけだ。結局、変化を望みながら変化を嫌い、誰かが行い、それが広がった時に自分も参加しようと考えている事なかれ主義、リスク回避主義の典型といえる。
もちろん、すべての企業がそうではなく、果敢に挑戦する企業もある。そうした企業は長期的な視野で見ているか、現状に対する非常に強い危機感を持っているかのどちらかである。最も変わらないのはそこそこの危機感しか持ってないところだ。存続の危機に直面していないから劇的に変革しようとは思わないのだろう。
例えば伝統産業の産地。販売方法を従来の問屋相手から直接消費者販売へと変革しようとしているが、モノづくりの現場や産地は何一つ変えないままだから、結局なにも変わらない。
消費者が産地を訪れ、会話が生まれれば、消費者の好みや消費動向も分かるが、接触がなければ従来通りのモノを従来通りに作るしかない。有田焼、備前焼の産地でも、家具の産地、大川でも皆同じだ。散策して楽しい町ではないし、そのような町にもなってない。製造現場を見せ、説明もしてくれる「しん窯」(佐賀県有田)のような所もあるにはあるが、同窯の対応は有田焼でも特異な存在といえる。
こうした所が1箇所や2箇所ではなく、地域がこぞってモノづくりの現場をオープンにすれば地域の浮揚はそれほど難しいことではないはずだ。
だが古い業界ほどエゴと既得権者の集まりだから、そこにどっぷりと漬かって生きている古い人達に変革を期待するのは所詮無理かもしれない。いつの時代も変革者はよそ者か、後発企業である。
そういえば奥入瀬渓流ホテルも以前は古牧温泉〜南八甲田・奥入瀬渓流〜十和田湖の三大リゾートの一環経営を手掛ける(株)古牧温泉渋沢公園の経営だったが、過剰な投資が祟り債務超過に陥り、2004年に民事再生法を申請。その後、ゴールドマン・サックスがスポンサーに決まって、(株)星野リゾートと折半出資でアセットマネジメント会社を設立。ホテル運営を星野リゾートが行っている。
星野リゾートの社長、星野佳路氏はゴールドマン・サックスと協力して、2005年以降ホテル・旅館の再生に次々と乗り出しているホテル業界では注目の人らしいが、私がそのことを知ったのは東北旅行から帰ってからだった。
現場が権限を持ち、判断、即実行
「ここは経営者が変わったみたいですね。なかなかいいホテルだと思うけど、前はなぜ失敗したのでしょうね」
浴場の清掃をしている人にそれとなく話しかけてみた。こういう人はフロントや客室関係の人間とは違う視点で客や従業員、ホテルのやり方を見ていたり、結構、本音の話が聞けたりするからだ。
「前は人を一杯使っていましたから。経営は苦しかったと思いますよ。でも、いまは皆さんが協力して、一生懸命頑張ってらっしゃいますよ」
この言葉の後半から、従業員の意識も変わったのだ、と感じた。どうやら自主性が重んじられているようだ。
ファンドがバックに付いた企業再生というと、新経営陣によるコスト優先のドライな経営というイメージが付きまとうが、星野リゾートのやり方は少し違うようだ。方向性は示すが、運営は支配人他全従業員の自主性を非常に重んじているらしい。現場は自分達の知恵が採用されるから、客の立場に立っていいと思えることをどんどん提案していく。現場のこのやる気が旅館を変えていくのだろう。
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