九州戦略を強めるすかいらーくに どう対応するのかロイヤル、ジョイフル
長引く不況と株価低迷の影響で外食産業にも不況色が強まっている。一番最初に切り詰められるのが外食費だからだが、異業種の参入、居酒屋、デパ地下など競合相手が増えてきた側面も見逃せない。そのため各社とも生き残りをかけ、メニューの見直しや新業態の開発に余念がない。果たして外食レストラン離れを起こした客を呼び戻すことができるのか。各社それぞれの取り組みを紹介する。 (ジャーナリスト 栗野 良)
ファミレスからファミリーが離れ、 居酒屋や中食市場に客が流れた
外食産業といえばかつてはファミリーレストラン(ファミレス)が代表格であり、家族連れが食事をする姿が目立ったものだ。ところが、いまではファミレスからファミリーの姿がめっきり少なくなっている。 なぜ、ファミリーのファミレス離れが起こったのか。その背景に個食化傾向があるのは間違いないだろう。コンビニに限らずデパートの食品売り場でも弁当がよく売れているし、総菜などは1人前パックで売るのはもはや当たり前の時代である。 では、デパ地下や持ち帰り弁当、コンビニに客が流れたのかと言えば、それだけでは説明しきれない。なぜならファミレスの代わりに居酒屋に家族連れが流れているからだ。 居酒屋といえばかつては男性、それもオジサン族が飲みに行く場所というイメージが強かったが、いまではすっかり明るく、清潔な場所に変わり、10数年前から女性客が急増している。彼女達にとって居酒屋は飲みに行く場所というより、食事ができる場所なのである。それに応えるように居酒屋の方も「家庭の夕食メニュー」を増やしてきた。それがさらに居酒屋に家族連れを呼び、いつの間にかファミレスのライバルにまでなってきた。 こうしてファミレスの客は一部は居酒屋に流れ、また一部は中食の持ち帰り弁当やデパ地下の総菜売り場、コンビニに流れていったが、「ファミレスが消費者に飽きられた。消費者のニーズに対応できなかったということだ」(西洋フードシステムズ九州)という言葉が端的にファミレスの状況を言い表している。
対応が分かれた外食産業の両雄 静のロイヤルに動のすかいらーく
さて、客離れを招いたファミレスの対応だが、外食産業の両雄、東のすかいらーくと西のロイヤルは全く異なった対応を示している。すかいらーくが消費者のニーズに対応すべく次々に新しい業態に店舗を変換していったのに対し、ロイヤルは頑な程に従来の姿勢を崩さなかった。 まず価格。デフレでマクドナルドを始めとして低価格路線に各社がシフトした時でさえ、ロイヤルは品質重視路線を崩さず、低価格路線に組みしなかった。すかいらーくがガストで500円を切るランチを出していた時でさえ、ロイヤルホストは800円台のランチを出し、各店に必ず調理師を配置していたのである。 ただ、同社のそうしたこだわりが消費者や店頭現場にどの程度理解されていたかとなるとかなり怪しい。ガストやジョイフルのランチとの間に価格差以上の差別化ができていたかというと首を傾げざるを得ない。むしろロイヤルの一部の店舗ではサービスと品質の低下さえ見受けられた。グループ全体ではかろうじて前年比アップを維持しているものの、外食事業、とりわけ既存店は前年割れを起こしている。
新業態店舗を次々に開発し 積極出店するすかいらーく
一方のすかいらーくは消費者のニーズに合わすべく次々に新しい業態の店舗を投入している。特にBSE(狂牛病)騒動で消費者の肉離れが起きたこととも相俟って、中華、和食の店舗展開に力を入れている。前者が「バーミヤン」の店名で、後者が「旬鮮厨房夢庵」の店名であり、これに洋食の「ガスト」を加えたものを、同社は「三本の矢」戦略と名付け、各店1,000店の達成を目指している。 また2001年からイタリア料理の店「グラッチェガーデンズ」を低価格を武器に展開している。こちらも2003年中に全国で100店体制を目指すなど、新業態店の出店を加速させているのが特徴だ。 この時期、同社が積極的な展開策に出ているのはデフレ不況で出店コストが下がっているからだが、積極展開にはある種の危うさも伴うだけに今後の動向に注目したい。とりわけ、現在、同社が重点地域と目し、積極出店しようとしている九州と東北地域で成功するか否かが今後を占う大きなカギになりそうだ。
北九州に総合工場を建設し 九州出店戦略の強化に乗り出す
ロイヤルの低迷(?)を好機と見たのか、すかいらーくが九州戦略を強化しだした。いままで「ガスト」を展開していたもののロイヤル、ジョイフルに比べて九州での店舗数は少なく、知名度も低かったが、2002年5月、北九州市若松区に敷地面積1万7,000u、鉄骨2階建て延べ床面積6,545uの北九州工場を建設。さらに同年6月には中華の「バーミヤン」を、9月には和食の「夢庵」九州1号店を相次いでオープンさせるなど、九州を今後の重点地域ととらえ、積極的な出店策に打って出てきたのだ。 すでに同社は太宰府に工場を持っているから、北九州の総合工場と合わせ2工場体制で臨む体制を築いたことになり、それだけ九州戦略を重視していることでもある。「バーミヤン」「夢庵」とも出足は好調なようだが、もし、今後、思うような実績を残せなければ同社にとって苦しい展開になる。
ジョイフルは居酒屋メニュー ドリンクバーの導入でナイトの売り上げ増
居酒屋など他業態に流れた客を呼び戻そうとしているのはなにもすかいらーくに限ったことではない。ジョイフル(大分市)も同じで、2002年にメニューを含め店舗の再検討をしている。 「消費者のファミレス離れを引き起こしたのは、たしかに居酒屋に流れたという側面はあるが、従来のレストランが提供する夕食が楽しくなくなったからだ。選べる楽しみがなくなっている」 とジョイフル副社長・穴見陽一氏は反省する。そこで同社は1日の時間帯別売り上げを細かく見直し、モーニング、ランチ、ナイトの時間帯に応じたメニュー構成に改訂した。 もう少し具体的に説明すると、まずメニューをオールタイムのグランドメニューの他に3種類のメニュー構成にし、時間帯別により選びやすく、選ぶ楽しさも味わえるようにしたのが特徴。 特にナイトメニューに居酒屋メニューを追加したことで、ナイトタイム、それも「夜12時以降の売り上げが2、3倍」(穴見副社長)に伸びている。単品単価を下げたが、逆に1人当たりの注文点数が増えたことに加え、アルコール類の売り上げが増え、全体としての売り上げ増になった。 またセルフサービスのドリンクバーを導入したことも好結果に繋がった。居酒屋メニュー、ドリンクバーは中国ジョイフルが6月から導入し、好結果だったので、8月から全店に導入したものだ。
短くなった消費者の嗜好サイクル 早い対応が必要
ただ、最近各社が低価格メニューで攻勢をかけてきており、同社の特徴である低価格も差別化しにくくなってきたのも事実。今後はさらに競争が激化すると穴見副社長も見ており、勝ち残っていくためには「財務体質の強化と内部体制の確立」が急務のようだ。そのためにも社員教育の充実を図り、本部の指示が伝わりやすくする方針。またコストダウンのために正社員削減をするのではなく、逆に今後正社員比率は上げていく方向だ。 さて、ロイヤルを除き、各社は居酒屋を充分意識したメニュー構成の充実でファミレス離れを起こした客を取り戻す策のようで、いまのところは成功しているように見える。ただ同質化で再び客離れが起こることも考えられる。以前に比べて消費者の嗜好のサイクルが速くなっていることもあり、今後はいかに早く消費者の嗜好変化に対応できるかが生き残りの分かれ目になりそうだ。 |