第3次ベンチャーブームの終焉が言われている。昨年に引き続き今年もベンチャー企業の倒産が相次ぎ、株式の店頭公開企業数も半減した。それどころか今年は、第2次ベンチャーブームの旗手、アスキーやジャストシステムまでもが経営危機に陥り、やっぱりベンチャーはダメか、という気運が市場を支配しつつある。たしかに金融機関の貸し渋りだけでなく、経営者の資質の問題や、ブームに躍らされ、舞い上がった面もある。だが、所詮はつくられた官製のブーム。こうなることは当初から見えていた。とはいえ、このままでは九州のベンチャーは鳴かず飛ばずで終わってしまう。それでいいのか。
やっぱり花形ベンチャーから倒産する
昨年はベンチャー企業の倒産が相次いだが、その勢いは今年になっても衰えることを知らず、有望なベンチャー企業が次から次へと泡の如く消えていった。それらの多くが3月末までに集中しているのは金融機関の年度末と密接な関係がある。格付けを重視する金融機関が資金回収に走った側面があるからだ。とはいえ、主要な問題はそれらベンチャー企業自身にあったのは言うまでもない。
さて、今年になって倒産したベンチャー企業の主だったものを挙げてみよう。
ゲームソフトメーカーのコンパイル、道路沿線店舗の異業種展開を支援するアイコン(以上広島市)、生ごみ処理機製造の日生技研(鳥取市)、業務用焼却炉開発のアール・ビー(仙台市)、消費電力が白熱電球の1/4、耐久時間が6倍の省エネ蛍光灯「ピカロボ」を開発したハイテック(茨城県)等が3月末までに事実上倒産している。
コンパイルはお化けソフトと言われた「ぷよぷよ」で一躍有名になり、昨年5月には中国地域ニュービジネス協議会からアントレプレナー大賞を受賞した中国地方期待のベンチャーである。「ぷよぷよ饅頭」までが出来、名物になったというから、そのフィーバーぶりが分かろうというものだ。ところが、アントレプレナー大賞受賞の10カ月後には、はや資金繰りに行き詰まり、和議を申請している。まさにベンチャーブーム即ベンチャー倒産ブームを地で行ったようなものだ。
日生技研は中小創造法の認定を受け、鳥取県のベンチャー企業支援第1号に認定されたこともあり、当初、売り上げは倍々ゲームで伸びていた。ところが、金融機関の態度が急変し、あっという間に資金繰りに行き詰まり倒産している。
また、ハイテックは茨城県が創設した「創造的企業創出支援事業」の第1号に選ばれ、1億円の投資を受けたが、結局は設備投資の失敗で倒産している。
支援の仕方が問われている
このように「ベンチャービジネスの雄」「期待のベンチャー」と持てはやされたところほど倒産しているのはなぜか? 公的な支援や受賞という「印籠」の力を誤信・過信したことからくる悲劇である。
テレビの水戸黄門を思い出して欲しい。放送終了時間の15分前になると、黄門様が「助さん、格さん、そろそろいいでしょう」と言う。すると助さんが懐から印篭を取り出して「控えおろう」。葵の門が付いた印篭を見た一堂は驚いて「ハハー」とその場にひれ伏す。見ていて実に気持ちがいい。もし、本当にあんな「印篭」があれば、と誰しも思っているに違いない。それがある日突然手に入ったのである。するといままで、けんもほろろだった相手が途端に掌を返したように擦り寄ってくる。「印籠」の力は絶大である。とんでもない力を手に入れた、と驚く。「印籠」のおかげで金はどんどん集まってくるし、1億円でさえポンと差し出されるのだから驚かない方がおかしい。ついこの間まで、飲まず食わずの倹しい生活をしていたのが嘘のように感じられるはずだ。
そのうち「印籠」そのものに力があるような錯覚に陥る。人々がひれ伏しているのは「印篭」にでも、「印籠」を持っている助さんにでもなく、その後ろの将軍家なのだ。つまり実体としての将軍家に価値がなければ「印籠」も価値がないのだが、そのことに気が付かないから悲劇が起こる。
逆接的な言い方だが、もし「ぷよぷよ」が爆発的にヒットしなければコンパイルの倒産はなかったし、茨城県から1億円の投資を受けなかったらハイテックが潰れることはなかっただろう。そういう意味では、今後支援の仕方が問われてくる。
ヒーローをつくるな!
ある研究会の席上、某ベンチャー企業の経営者が「私はいままでに40回も話しているから、このように理路整然と話せるが、他のベンチャー企業の経営者はこうはいかない」と自慢げに語ったことがある。当のベンチャーが設立されたのは2年前。単純計算でも2年間に40回、つまり月に2回はなんらかの形で話をしていることになる。ベンチャー企業の経営者が話すとなると大抵相場は決まっている。開発にまつわる苦労話か、開発商品の内容(PR)である。それにしても月2回の講演は多すぎる。これでは業務に割く時間がないだろう。中小企業の経営者でもこんなことをしていたら会社を潰してしまう。いわんや誕生間もないベンチャー企業ならなおのことである。
なぜ、こんなことになるのか。ベンチャーブームのなせる業である。さらなるベンチャー誕生、育成のために、成功ベンチャーの意見を聞こう。ベンチャー企業支援のためにベンチャー経営者の声を聞こう。こうして各種セミナーに引っ張り出されることになる。まあ、ある程度は仕方ないだろうが、指名が特定の企業に集中することから悲劇が始まる。特定の企業とは「印籠」、つまり県や国からお墨付きをもらった企業である。コンパイルもハイテックも有頂天になって自慢話をあちこちでしている間に足元が崩れかけていたのだが、彼らはそれに気付かなかった。いや、気付いてはいたが講演の依頼を断ることができなかったのだろう。
歴史に「もし」はないが、もしも、彼らが企業経営にじっくり時間をかけて取り組んでいたら、倒産という最悪の事態だけは避けられたのではないだろうか。
結局、潰したのはヒーローに祭り上げた善意の周囲ということになる。ある特定の1社をヒーロー扱いしてセミナー等に引っ張り回すことだけは絶対やめなければならない。
九州でベンチャーの倒産が少ない理由
全国的にみれば昨年に引き続きベンチャー企業の倒産が相次いでいるし、筆者も昨年末に「98年は九州でもベンチャー倒産が増える」(IB冬季特集号)と書いた。ところが今のところ九州ではベンチャー企業の目立った倒産がない。なぜなのか?
O監査法人のS氏は「バブルの時と同じ傾向だ」と指摘する。「九州はバブルの恩恵をそれほど受けなかった代わりに、バブル崩壊の影響もそれほどなかった。それと同じで急拡大するようなベンチャーが出てないから倒産もない」と。堅調といえば聞こえはいいが、裏を返すと成長性もないということである。それは九州人の保守性と大いに関係がありそうだ。
もう一つは不景気に助けられた側面がある。奇妙に聞こえるかもしれないが、バブルの時と同じで、九州にはベンチャーの波が遅れてきている。そのため、さあ、これからという時に景気の波が一段と厳しさを増し、設備投資どころの話ではなくなったのだ。これが幸いして、一気に慎重になった。鳴り物入りで中小創造法の認定を受けた第1グループの企業の中でさえ、その後計画を縮小したり、認定時のテーマを変更したりしているところもある。そういう意味では九州の企業の堅実さが倒産を防いでいるといえる。
3つめはテーマが堅調。裏を返せば革新性、面白さ、市場性があまりないため、急激に大化けしそうな会社がないことである。さらに組織性とか、企業の社会的な使命感等に対する意識があまりなく、妙にこじんまりとしている。つまり従来の中小企業の域を出てないのだ。
ベンチャーとは危険性はあるが、革新性があり、市場的には急成長が望めるものを言う。ローリスク・ローリターンで果たしてベンチャーと呼べるかどうか。第一、迸るような企業家意識もなく、小さな会社を設立して無難に行こうというような意識で、激動の時代に起業化そのものができるかどうか。この点で九州のベンチャー企業にはもの足りなさを感じる。
ベンチャー=研究開発型ではない
ベンチャーブームになると必ず議論されるのがベンチャーの概念である。第2次ベンチャーブームの初期の頃、この不毛な議論が学者達の間でしきりに交わされた。当初、ベンチャーとは研究開発型企業だとする見解が強かったが、その後、ソフト・サービス産業やすき間産業型企業もベンチャーの概念に加えられるようになった。こうした概念論争になにほどかの意味があるとは思えないが、今回のベンチャー育成に多少なりとも関係するので、学者の暇つぶしと見過ごすわけにはいかない。
というのは、いまでもベンチャー=研究開発型企業とする見方が一部に根強く残っており、それがためにベンチャー企業の育成を阻んでいる面があるからだ。特に九州は理工系大学・学部が多いこともあり、研究開発型ベンチャーを重視する傾向がある。それはそれでいいのだが、そのことがソフト・サービス型ベンチャーを一段下に見、そのことでソフト・サービス産業型ベンチャーの誕生・支援を阻害している面があるとしたら問題だろう。
ベンチャー企業の誕生には大きく分けると2つのパターンがある。1つはある技術なり特許をもとに起業化するパターンで、もう1つは市場の魅力に引かれて起業するパターンである。前者には研究開発型が多く、後者はソフト・サービス型が多いということもできる。後者の場合は通信事業などのように急拡大している市場や、ニッチ市場を狙って参入する方法で、市場の成長力に合わせてベンチャー企業も急成長する可能性がある。
またニッチ市場の場合は大手企業では採算ベースに乗らなくても、ベンチャー企業や小企業なら採算に乗る可能性が大きい。ただ、当初ニッチ市場と考えられていたものでも、その後市場が予想外の広がりを見せることがあり、そうなると大手企業が資本にものを言わせて参入してくる可能性もある。循環式24時間風呂等が好例で、昭和鉄工などが苦労して市場を育てと思えば、あっという間に参入業者が増えて市場が引っ掻き回された。そうなると最後は体力勝負になり、結局体力の弱い中小企業やベンチャー企業は市場から弾き出されてしまう。
革新性に乏しい九州のVB
話を元に戻そう。九州のベンチャー企業の倒産が少ないのは、急成長している市場への参入が少ないからであり、ソフト・サービス型ベンチャーの数が圧倒的に少ないからである。
中小創造法認定企業の事業テーマを見ればこのことはさらによく分かる。革新性、市場性がありそうなテーマは数社しかない。後は長年コツコツとやってきた(改良してきた)技術内容だったり、ニッチもニッチ、本当に限られたマーケットでしか存在しえないような技術だったり、真面目にその技術でマーケットに打って出ようとしているのかと疑いたくなるような内容だったりする。
なぜ、こんなことになるのか。結局、役人に技術の内容が分からないからにほかならない。ところが中小創造法は施行された。県内から1社も認定企業が出ないのは困る。そこで、いままでなんらかの形で接触したことがある企業に「書類を出しませんか」と声をかける。まあ、毎度のことといえば毎度のことだが、本当にベンチャーを発掘し、その企業を育成していこうと考えているとは思えない。役人がすることはいつも数合わせだ。だから九州から急成長するベンチャー企業が出てこないのだ。
ヤングベンチャーって何だ?
もう3年も4年も国はベンチャー育成と言っている。ところが出てくる端から潰れていく。そこで、これではいかんと、手を伸ばしたのが苦しい時の神頼みならぬ若者頼みで、ヤングベンチャー。最初この言葉を耳にした時、設立間もないベンチャーのことかと思ったが、そうではなく学生ベンチャーを指す言葉らしい。
なんで学生ベンチャーなんだ、と不思議に思う人が多いだろうが、事の発端は80年代の不況に苦しむアメリカ。見事立ち直ったのはベンチャー企業の活力。その中には学生も多かったことから、よし、日本でも学生を起業化させろ、というわけだ。幸い不況で就職難。バイパス手術みたいなもので、就職先がないならいっそ学生自らに会社を作らせればいいじゃないか、という発想である。たしかに在学中に起業していた学生はいるし、20代の女性が起業している例もある。だが、そういう例があるというのと、システムとしてするというのは別問題だ。
ヤングベンチャーに対して「経営とはそんな甘いものではない」とか「経営学の勉強をしてから起業しても遅くはない」などという人は多い。だが、それは違う。そういうところに問題があるのではなく、現在の学生が置かれている立場にこそ問題があるのだ。アメリカの学生と違って日本の学生は、物心が付いた頃から管理と、和という名のもとの没個性を強いられてきている。ここを変えない限り学生の起業化といっても難しいのではないか。つまり日本の管理教育システムそのものを見直すことが先だと思われる。
泳ぎは水の中でしか覚えられない
倒産ベンチャーの中にはアイデアは素晴らしかったが経営能力がなかったという人が多い。そのため経営の定石や理論を学べるようにしようとか、理系の大学院生にも経営学教育を実施しようという動きが出ている。実に喜ばしいことだ。たしかに知識があれば防げたものもある。しかし、知識はあり過ぎると却って邪魔になる。経営学のプロである経営コンサルタントが自ら事業を行って成功した例は非常に希だ。少なくとも筆者は知らない。実践的に役に立つ経営理論といえば心構えぐらいなものだろう。畳の上で水泳の練習をいくらしても泳げるようになれないのと同じで、泳ぎを覚えるには水の中に入るしかない。
とすれば、最低限必要なことは息の止め方と吐き方、そして必死に手足を動かすということ。バタバタやっていれば人は見ている。後は危ないと思った時に速やかに助けに行けるかどうかだろう。
産学官協力の間違い
ベンチャーに限らず支援という時必ず産学官協力という。だが、いつもこの体制が問題になる。まず公設試や大学等の研究機関が本当に中小企業と協力関係を結べるのだろうか。どの研究機関も判で押したように「開かれた研究機関」と言う。そのくせ現場に足を運んだという話をほとんど聞かない。「来てくれれば教えます」という態度だ。現場にいる人間より研究をしている人間の方が偉いという意識がどこかにありはしないだろうか。そうでなければいいが。
筆者は以前から繰り返し言っている。現場に足を運んで欲しい、と。現場で実際に即してアドバイスして頂きたいのだ。中小企業の経営者は一人で何もかもしなければならないから超多忙である。いわんや立ち上げ間もないベンチャーはなおのことだ。
ネットワークとムーブメント
では、どうすれば九州のベンチャーを育成・支援できるのか。これについてはまた稿を改めて書くことにするが、最後に筆者が仲間の協力を得ながら開始したムーブメントに少し触れておきたい。
ベンチャーに対する様々な支援態勢が必要なことは言うまでもないが、より実践的なところで支援できないかということを常々考えていた。より実践的な支援とは何か。製造と販売、技術と技術、人と人の橋渡しである。詰まるところヒューマンネットワークを利用したジョイント、橋渡しである。この電子メディアが発達している時代に至って原始的な方法でいこうというわけだ。しかもネットワーカーにはボランティアを要求している。簡単に言えば勝手に企業や商品の応援をしようというわけだ。Give
and Give の精神である。世の中 Take and Take や Take and Give が多すぎる。だから Give and
Give でいこうと。
ベンチャーに限らず中小企業は社内に企画室を持てないところも多いはず。ある時は企画室がわりを、またある時は販売会議を、勝手にやってしまおうというわけだ。そのためにはネットワークの構成員の質が問題になるが、それぞれの分野で活動している優秀な人材に協力してもらっているし、いまも一人一人口説いている。
もう一つは筆者が長年取材してきた九州の技術系企業の技術データベースをホームページ上に作ろうとしている。技術データベースといっても社名と事業内容を表で載せたようなチャチなものではない。データベースといっても実際に商談や提携が生まれるような内容でなくては意味がないから、あちこちでつくられているような表組み、もしくはそれに毛が生えた程度のデータベースではない。筆者が過去、さらに今後取材を続けていく企業の内容を全部収録して、社名、技術で検索できるようにしよう。さらにそれを各社のHPとリンクしようという構想だ。興味がある方は筆者までメールを。
E-mail:[email protected]
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