強欲資本主義に毒されていたアメリカ
市場原理に任せておけば「見えざる神の手」が働き、全体で調和が取れるようになるどころか、市場原理に任せておけば「神の手」ではなく「悪魔の手」が裏で働き、誰かが不正に儲けていたのである。
新自由主義経済下の政策を進めてきたアメリカではサブプライムローンに端を発した今回の不況で、こうした事実が次々に明るみに出た。
しかし、アダム・スミス風に言えば「時代の意思」は人間の愚かな行為をいつまでも許さず、修正を加えだす。
事実、アメリカでは「Change!」という言葉とともに登場したオバマ大統領の下、行き過ぎた新自由主義経済に決別し、その修正に乗り出しつつある。
それは高度な経済理論や金融工学などによるのではなく、ごく普通の人間が持っている「庶民感覚」(しばしば倫理観と一体であることが多いが)によってである。
例えば政府に緊急援助を要請するため上院の聴聞会に豪華な社用ジェット機で出席した米自動車メーカー・ビッグスリーの幹部達は議員から現状とかけ離れた彼らの感覚を厳しく指弾された。
税金を投入して欲しいとお願いに来るのに社用ジェット機でワシントンに乗り付けるのか、と。
すると彼らは2度目の聴聞会の時には自動車で2日かけて行ったのである。これこそ「あつものに懲りてなますを吹く」だ。
ここにアメリカ社会の「change(変化)」を象徴する出来事を見ることができる。changeしようとする側と、古い体質のままchangeに踏み出せない側の対応。それが象徴的に表れており、実に面白い。
議員が問題にしたのは「ジェット機に乗ってくるという行為」ではなく、ビッグスリーの「体質」である。であるが故に「普通の飛行機でワシントンに来た」かどうかを最初問うたのだ。飛行機で来ることが問題にされたわけではないのだから、2度目の時は路線航空のジェット機で行けばよかったのだ。それもビジネスクラスではなく、エコノミークラスで行けば少しは心情に訴えることができたに違いない。それを自ら自動車を運転して、12月の大変な時期に2日もかけて聴聞会に行ったのだから、その方がよほど時間のロスである。
ただ、社用ジェット機=高額な財産、贅沢の象徴、と見られ、それを手放さずに税金の投入を乞うたのが国民の反発を招いたのは間違いない。それまでのアメリカ社会ならここまでのは反発はなかっただろう。むしろ豪華な持ち物や贅沢な暮し、頭抜けて高額な報酬は成功の証しであり、賞賛、憧れの的だったはず。それが一転して、批判されるようになったのだから皮肉だ。
アメリカ人は強欲だ、という説があるが、元からそうではなかったはずだ。日本人もバブル期の頃は随分と強欲で、札束で人の頬を叩くようなことを国内のみならず世界でやってきた。同じようにアメリカ人も金融バブルを経験して強欲になり、本来の姿を忘れていた。それがサブプライムローンに端を発する今回の不況で元の姿を取り戻そうとしている。時代の修正作用が働き始めたのである。
(3)に続く
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