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 よいモノを作っているだけでは売れない(後)
      
中小企業ほど「広報」に力を入れろ

口コミを補完する材料をいかに提供するか

 では、中小企業はどうか。
広告宣伝はもちろんのこと、広報にさえ力を入れていない。
いまだに「いいモノを作っていれば、口コミで売れる」と思っている企業が多い。
中には「広告・宣伝で売るより、口コミで売れるようにしたい」という企業もある。
そこには広告・宣伝=誇張、口コミ=本当の姿を理解、という図式がありそうだが、果たしてその通りか。

 仮に「口コミだけで売りたい」と考えたとしてみよう。
口コミの材料(元ネタ)はどういう形で提供するのか。
商品を買ってもらったお客さんに紹介してもらう?
もちろん、そうだろう。
ただ、それでどんどん伝わっていけばいいが、口コミで紹介してもらった人がまず買ってくれなければ、そこから先には伝わらない。
とすると、できるだけ多くの人に買ってもらわなければ、口コミも役には立たない。

 口コミの問題点はもう一つある。
伝えたい情報が伝わらなかったり、不正確なまま伝わっていくことがあるということだ。
これは情報の発信者(伝達者)がユーザーであり、発信者の感想に基づく主観的情報であるため、やむを得ない部分もある。
 そこで正確かつ質の高い情報を伝えていくためには、ユーザーの主観的情報に客観的情報等をプラスしていく必要がある。
平たくいえば口コミ情報を補完する「元ネタ」の提供である。

 大手企業の場合は広告宣伝という有料で情報を発信することで、常に伝えたい情報をきちんと伝える努力をしている。
しかし、中小企業の場合はコストの問題もあり、大手企業のようには行かないのが実情だろう。
 ただ、コストはなんでもかんでもかければいいというものでも、逆に削ればいいというものでもない。
 必要なところに必要な分をきちんとかけることが重要で、行政などによく見られる一律何パーセントカットという縮み志向ではなにも事態は解決しない。

 ここで、いままでの流れを少し整理してみよう。
1.よいモノを作っているだけでは売れない。
2.売れるためには自社、自社の商品の存在を幅広く知ってもらう必要がある。(社会的認知度のアップ)
3.そのために情報発信(広告宣伝、広報、口コミ材料の提供)を積極的にする必要がある。
4.大手企業は積極的に情報発信を行っているが、中小企業は情報発信が量、質ともに弱い。
5.中小企業は資金力が弱いが故に口コミに頼ろうとするが、口コミは情報の広がりが弱く、内容の精度に問題があることもある。


 実は私が中小企業の情報発信力の弱さに気付いたのは20年近く前だった。
取材等で地方に行けば行くほど、よいモノを作っているのに、あまり知られていない、知る人ぞ知るみたいな企業が結構あった。
 総じてそうした企業は職人的で、高い技術力を持っている割には商品があまり売れてなかったり、自社製品のよさをアピールすることも、特徴を説明することも下手だった。
かといって、売り上げに無関心というわけでもなく、いまよりもう少し売り上げを上げたいと思っている。
ただ、実態以上に仰々しく宣伝して、大量に販売したいとは思っていない。
そんな中小企業に数多く出会った。

 そこで私が始めたのが、そうした企業の代わりに広報、情報発信をすることだった。
それが「九州テクテク物語」に始まる「九州の技術」「九州の頑張る企業」の取材だった。
こうした技術取材は結構骨が折れた。
コストからいえば取材費はまるまる赤字で、まったく割が合わなかったが、ユニークな技術に出合えるという個人的趣味、ボランティアでやっていた。
だから職人的タイプの人と気が合ったのかもしれないが。

中小企業ほど「広報」に力を入れるべきだ

 まあ、それはさておき、中小企業はもっと自ら情報を発信すべきだと思う。
そういうと、大手企業と違って、自分達には発信するような情報がない、とう声が返ってくる。
 果たしてそうだろうか。
会社が動いている限り何らかの変化はあるはずだ。
例えば新規事業の開始、新製品の開発・販売、営業所の開設、増資、会社移転、役員の改選等々。
このようになんでも情報として発信すればいいのだ。
 私が知っている会社でとてもPRが上手なところがある。
どこそこで展示会を行う、いついつセミナーを開設する、受賞した、出展する・・・。
ことあるごとにメールその他を送ってくる。
社員数人でやっている小さな会社だが、社長は旧松下電器の社員。察するに松下時代に情報発信の重要性を教えられたのではないかと思う。

 小企業ほどこうした姿勢を学びたいものだ。
「でも、取引先は大体決まっているし、発信するといってもメールの送り先でさえそう多くはない」
 そういう声も聞く。
それぐらいの協力ならいくらでもする。
 例えば私が配信している「栗野的視点」は毎回700人前後に送っている。
私のアドレス帳には1,000人近い登録がある。
私の場合、一度会った人は全員アドレス帳に登録するというやり方をしていない。
なんらかの形で今後もお付き合いをしたいと思う人しか登録していない。
さらに「栗野的視点」「リエゾン九州メール」その他で送り先を分類している。
いわばできるだけ相手にあった情報を届けられるようにしているわけだ。

 ともあれ私に情報を送ってもらえば1,000人近い人へ発信する協力はできる。
もちろんリエゾン九州の会員は無料だ。
 ただ、元になる原稿は自分達で書いて送って欲しい。
自分で書くことによって考え方も整理されるし、プレゼンする時の役にも立つ。
もちろん、文章の一部手直し程度の協力はやぶさかではないが、パンフレットを送ってきて、これで書いて欲しいというような、何を考えているのか訳の分からない人も中にはいるので。

 何度も言うようだが、中小企業は広報の類が下手、というか広報をしない。
自社の認知度を上げるためには広報に力を入れるべきだ。
そういうことを繰り返して初めて、良いモノが認められ、売れていくのだ。
そのための相談、協力は惜しまないつもりだ。

                                                (完)


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