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生き残る歯科と潰れる歯科はどこが違うのか。


 先頃、福岡県うきは市のたけうち歯科医院で「生き残る歯科と潰れる歯科はどこが違うのか」と題して講演した。

 いま、歯科は「不況業種」といわれる程厳しい環境下に置かれている。
背景にあるのは少子化と歯科医師増による競争激化。
このことは先頃、国が医学部の定員増を認めたが、そこに歯学部が含まれていないことからも分かる。
それぐらい歯科医院はいま供給過多になっている。
しかも現在開業している医院のほとんどが医師1人か2人の小規模経営。
一般企業に例えれば零細企業がほとんどで、中小規模の企業すら数少ないのが現状。
裏を返せばそれぐらいの規模でしか経営できないということでもある。

 ところが、たけうち歯科医院の陣容は武内孝治院長のほか常勤医師4人、歯科衛生士等を含めると総勢約20人のスタッフ。しかもインプラント治療にも力を入れ、治療例も多い。
患者数が多いと見られている福岡市内でも2桁のスタッフを抱えている歯科医院は数少ないだけに、地方ではよけいに目を引く。

 それにしても人口過疎化が進む地方で同医院はなぜ流行るのか。
それを見る前に、ちょっと話を変えて、できることなら行きたくない診療科はどこかを聞いてみたい。恐らく歯科をトップに挙げる人が多いのではないだろうか。
 なぜ歯科が嫌いなのか、その理由は人それぞれだろうが、歯科に行くのは歯痛などで、やむにやまれず行くというパターンが一番多いのではないだろうか。
 となると、歯科医院が流行るか否かは人口に比例するということになる。これは歯科に限らず、どの業種にもいえることだが、人口密集地域の方が圧倒的に有利である。
 とはいえ、人口密集度はあくまでも必要条件というに過ぎず、それが絶対条件ではない。
むしろ人口減少局面ではリピート率の方が重要になる。

 では、どうすれば患者にリピートしてもらえるのか。
患者がリピートをしてもいい、リピートしたいと思うのはまず技術の善し悪しだろう。
これは絶対条件だ。
 ところがやっかいなのは「技術」という場合に、「プロ受けする技術」と「患者にとっていい技術」の2つがあることだ。
 プロ(この場合は専門医)はともすればやたら難しい技術にチャレンジしたり、細かいところに技を発揮したがる。そのこと自体は悪いことではないが、細かいところに固執したり、あえて難しい技術にチャレンジ(試す)することで患者を置き去りにすることがなきにしもあらずで、そうなると本末転倒である。

 必要なのは患者の立場になって考え、行うことである。
この、相手の立場でものを考えるということは言葉で言うほど簡単ではない。
なぜなら人間はまず自分の立場でものを考え、行動するからである。
それだけに常日頃から訓練しておかないとなかなか実行できない。
 しかも、院長一人がいくら患者の立場でと考え、行動してもダメで、スタッフ全員が院長(一般企業の場合なら社長)の理念、考えを理解し、行動しなければ患者のリピートはないだろう。

 3つ目はサービス業の視点を入れることである。
これは上記2つの相手の立場でものを考えることと似ているが、非サービス業の人達は自分達は製品や技術を提供しており、サービスを提供しているわけではないと思いがちだが、それは間違いだろう。
使い勝手やデザイン性の悪い製品は買いたくないし、緊張する技術は受けたくないだろう。

 さて、たけうち歯科医院で感心したのは院長が非常に勉強熱心なこと。
それも自分だけでなく、スタッフ全員に視野を広げる機会を提供している点。
むかし、「専門バカ」という言葉がしきりに取り沙汰された時代があった。
「専門バカ」とは専門のことしか知らず、それ以外の世界のことは、常識的なことを含め全く知らない、少し偏った人間を指した言葉だが、そうした人間にならないようにとスタッフを戒めている。そのために院内研修や外部研修などを積極的に行っているようで、1歯科医院でここまで勉強熱心な所はあまり知らない。
 もう1点。後進の育成・独立を後押ししていること。
実は私が院内講演を頼まれた時、経営的な話も含めた方がいいか、それとももっと一般的なレベルの話でいいかと尋ねると、武内院長から次のような返事が来た。
「当院には開業しようと考えている若いドクターもいます。未来ある若いドクターには是非、成功してもらいたいと考えているし、業界の為にもそうあって欲しいし、その為に私も出来る限りのサポートをしたいと考えている」ので、そういうことも考慮した話をしてくれと。

 これからはどの業界も狭い視野では生き残ることすら難しいだろう。
広い視野を持った人材育成が必要で、同医院が患者に好感を持って受け入れられているのも、院長のこうした姿勢があればこそだろう。


  医療法人たけうち歯科医院
  福岡県うきは市吉井町鷹取26-10
  tel 0943-75-4511
  http://www.mikku.co.jp/takeuchi/



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