今こそチャンス 3倍規模の出展
長引く不況の影響でリストラ、リエンジニアリングという名の縮み思考ばかりが目に付くが、視点を変えれば他社が守りに汲々としている今こそチャンス、とばかりに攻めに転じている企業もある。食品機械メーカー、不二精機(福岡市博多区西月隈、青木稔社長、資本金7000万円、従業員200人)がそうだ。 今春3月8日〜12日の5日間、晴海の東京国際見本市会場で「第22回国際ホテルレストランショー」が開催された。同社も例年このイベントに20〜26小間を使用して出展しているが、今年は一挙に3倍の72小間に増やした。不況のため小間数を縮小したり、出展そのものを見合わせる企業が多い中で、逆に増やしたのだから大いに注目を集めたのは言うまでもない。しかも1社の利用小間数としてはホテルレストランショー始まって以来の規模だった。 「決して儲かっているわけじゃないけど、ここでほかと同じように縮小してやっていたんでは意味がない。こんな時こそ大きくアピールする必要がある」というのが青木稔社長の考えだった。 同社も不況とまったく無縁ではなかった。今まで不況に強いといわれた食 品業界も、今回の不況では他業界と似たり寄ったり。むしろ初めてのダウンだけにショックは大きかったかも知れない。当然食品機械メーカーはその影響をさらに増幅して受けているはずである。そんな状況下での大規模出展である。 何事につけ「業界並み」という横並びが好きなのが日本企業の特性。1社だけ変わったことをするのはそれなりに勇気がいる。それを敢えて実行に移せるのは企業が若いか、トップが若いかのどちらかしかない。青木社長は44歳。無鉄砲さで突っ走る歳ではない。かといって守りに徹する年齢でもない。 72小間分の出展に要した金額は同社の「1年分の展示会費」に相当していた。一種の賭けといえる。従来、プロジェクトのリーダーは常務クラスだったが、この時は社長自らリーダーとなった。それなら仮に失敗に終わっても社員に責任はない。「一度思いっ切りやってみたい」。そんな考えもあった。 さて、このスペースをどう使うか。ただ製品を並べるだけでは面白くないし、第一、不二精機ここにあり、というアピール度も弱い。そこで考えたのが会場に「IH炊飯ロボ」「卓上握飯機」「小型巻寿司機」「災害派遣車」など、同社の製品群を組み合わせてミニ食品工場を作る方法。これらの機械を使用して、実際におにぎりや巻きずし、いなりなどを作り、試食してもらうのだ。製品そのものより、製品で作ったものを見せることで、さりげなく製品の優秀さや使い方の提案、システムの提案をしていこうというわけだ。
挑戦意識で開発した I H 炊飯ロボ
ここで不二精機の製品群、特に今回のショー出展のメイン製品ともいえる「IH炊飯ロボ」について説明しておかなければならないだろう。正式名称はマイコン制御全自動「IH炊飯ロボ」。IHとはInduction Heating(誘導加熱)の略で、IH炊飯とは電磁加熱炊飯のことである。 IH炊飯器は1988年に市場に登場後またたくまに普及し、今では炊飯器といえばIH炊飯といわれるほどだからご存じの方も多いだろう。磁力線で釜そのものを発熱させるため熱効率が高く、炎が出ない、温度調節が細かく設定できるなどの特徴がある。 麻生和郎工場長によれば、同社が漠然と炊飯ロボットの開発を考え出したのは5、6年前のことらしい。すでに「自動握り飯機」や「シャリ玉成形機」 「べんとうロボット」「軍艦巻機」など、ごはんを加工したり詰め合わせる機械は開発していたから、「次はごはんを炊くことに挑戦してみよう」と考えたと言う。 とはいえ、今までに炊飯ロボット的な機械が存在しなかったわけではない。すでに何社かが商品化していたし、不二精機自身某社のユーザーでもあった。だが、某社の自動炊飯器は「炊き上がりが今一つ納得できなかった」のと、業務用なのに2升炊きまでしかなかったため、それならいっそ自作で、と開発に踏み切ったのだ。 「迷い、手間取った」のは熱源を何にするかということだった。最初は蒸気に挑戦した。「ごはんの炊き上がりがもっともおいしい」からだ。だが、これには大きな難点が二つあった。まず、ボイラーとの接続をどうするかという問題である。ボイラーと接続すればどうしても機械が大きくなる。スペースに余裕があるところはいいが、そんなところばかりではない。むしろ逆に少しでもスペースが欲しいのが食堂や旅館である。もう一つの難点は細かな温度調節がしにくいという点である。 では、ガスは、電気は、といろいろチャレンジしたが、いずれも帯に短し、たすきに長し。そうこうしているうちに出てきたのがIH。もしかしたら、という期待を込めてIHにチャレンジしたのが予想以上にうまくいった。 こうして完成した「IH炊飯ロボ」は次のような特徴を備えていた。 @ふっくらとおいしいごはんが炊ける。高周波により水に超音波振動を与え芯まで吸水するから、ふっくらとおいしく炊き上がる。 A炎がないから安全で安心。ガス式と比べてガス漏れや作業空間の空気の汚れを心配しなくていいから安全だ。 B作業環境が快適。熱が周辺に発散しないから室内に温度差がなく、余分な空調コストがかからない。 C作業効率がアップ。米の計量、洗米、水の定量供給、炊飯、釜出しまでを全自動で行うから作業効率が大幅にアップする。 D操作が簡単。操作は本体前面のタッチパネルを指で押すだけ。しかもあらかじめ炊飯量、水加減などをセットしておけば、あとは運転ボタンを押すだけでいいから、誰でも操作できる。 E1週間の予約タイマー付きだから、朝一番の炊飯も機械任せでゆっくり出社できる。 F炊飯量は5升〜2升までの7段切り替え。従来の業務用自動炊飯器は2升炊きまでしかなかったが、5升炊きまで可能にした。 G外米ボタンを装備。 このほかにも重く熱い釜を持たずにごはん移しができるように釜の自動傾斜とか、貯米庫の位置を釜の下部に装備して使いやすくするなどの工夫が随所にされている。
ターゲットは 外食産業9万件
このように様々な特徴を持ったIH炊飯ロボだが、最大の特徴は同社の販売戦略まで変えてしまったことだろう。 今まで同社の製品は全国に11カ所ある営業所が直販方式で売っていたが、今回のIH炊飯ロボの販売には代理店方式を採用するという。現在、代理店を募集中で、この6月末から発売を開始する計画だ。それだけ炊飯ロボのマーケットは拡大すると青木社長は予測している。 「ホテル、旅館はもちろんのこと、外食産業9万件すべてがターゲットですよ」 と意気込む。 成否の鍵を握るのは開発陣。いかにコストダウンを図るかが課題だろう。 「従来の機械だと月に5〜10台作ればよかったんですが、炊飯ロボに関してはその10倍の生産を目指しています。そうなると量産指向ですべての設計をしなければいけませんし、厳しいコストダウンに現在も挑戦中です」 麻生工場長は続けて言う。 「社内の技術力アップのためにも、いろんな技術に対してとにかく一度内製化してみるつもりです。コイルを巻いたり、樹脂の成形など、今までうちでやったことがなかったものでも、ある程度の技術は持っとこうと思っているんです。量産時に本当にそれらを内製化するかどうかは別にしてですね」 新しい技術にチャレンジすることで、社内の技術力をさらにアップしようというわけだ。こうした開発陣の努力の結果、従来の同社製品に比べ、生産原価は半値近くまで下がってきた。さらに今年度中には、現工場横の敷地に炊飯ロボ専用の新工場を建設し、本格的な量産体制に入る計画である。
走るおむすびカーに 各方面から熱い視線
「IH炊飯ロボ」を同社の戦略商品とすれば、「災害派遣車」は遊び心で作った商品といえるかも知れない。それは「売るつもりで作ったのではない」という青木氏の言葉にも表れている。 「九州は普賢岳の噴火災害や鹿児島の水害がありましたので、少しでもそういう時のお役に立てればと作ったのです」(青木氏) 機能的にはIH炊飯ロボ、ほぐし付きリフト、おにぎり成形機、おにぎり包装機、発電機などの一式を4dトラックの荷台部分に搭載し、電気も水もない場所でもおにぎりを即座に作れるようにしたのがミソで、1時間に2400個のおにぎりが作れる。 早速、同社の「災害派遣車」に注目した福岡県から、5月24日の防災訓練に出動≠オて欲しいと要請があり出動=B消防関係者から「自衛隊のシステムより優れている」と感心されるなど、結果は好評で、思わぬ所で同社の技術力の高さが見直されている。 見方を変えればこの「災害派遣車」は同社のシステム説明カーであり、移動PRカーでもある。その辺りの計算も青木氏の頭の中にあったかも知れない。
全社員の5分の1が 開 発 部 員
不況期にもかかわらず同社が積極的にマーケットを攻めているのは、IH炊飯ロボや災害派遣車など新商品の開発が次々に行われているからにほかならない。このほかにも炊き上がったごはんを盛り付ける「ライス・エクスパンション」「2連卓上盛付機」「酢合わせ機」「醤油付け機」「バッテラ機」などがあるが、90年に日本経済新聞社の年間優秀製品賞を受賞したのが「べんとうロボット」。その後の同社躍進の基礎を築いた製品である。セブンイレブン、ローソン、ヤマサキデイリーなどのコンビニエンスチェーンなどに納入され、おにぎり成型包装機のシェア85%を握る製品に成長している。 ここ数年、同社の商品開発は新機種、機種改良を含め年間4、5機種というハイスピードで行われている。それを支えているのが総勢40人の開発部員。この人数は全社員の5分の1にあたる。一般的な製造業なら200人で4、5人が開発部員というところだから、同社の人数がいかに多いかよく分かるだろう。しかも「作った商品で売れずに倉庫に眠っているのは20%程度」(麻生氏)しかないというから驚く。 商品の開発はプロジェクトを組んで進むという方法ではなく、大体1人ないし2人で1機種を開発するというやり方。 「うちには図面を書くだけの人間はいません。お客様と折衝し、図面を書き、部品の加工、製作、テスト、納品、手直しがあれば手直し、どうかすると入金の確認まで済ましてきますから」 と麻生氏。 とはいえ、当初からこのやり方ではない。やはり以前はそれぞれのセクションごとの仕事をしていたが、「セクショナリズムが発生」してきたため、今の方法に切り替えたとのこと。 「一種の分業の否定です。今まで私達は大手を見習おうと、大手の真似を一生懸命してきたんですが、それが逆にセクショナリズムを生みました」 と反省する。 中小企業のよさは顧客の要望に即座に応えられる小回りと、技術の結果が見える「作る喜び」にほかならない。規模の大小には関係なく、気付かぬうちに大企業病的なものが忍びよる危険性があるということだろう。それを排し、開発した機種が現在30種類。売り上げは42億円。100機種100億円を目指している。
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