異業種交流で生まれた 流水リハビリ装置
ちょっと余談になるが、筆者は数年前から腰痛に悩まされ、痛みが激しくなると整形外科で治療してもらうという生活を続けていた。鍼灸院や整体療法を勧めてくれる人もいたが、整形外科医の勧めに従い水中歩行を始めて2年。おかげで以前程腰痛に悩まされることはなくなった。 このように水を用いた治療が注目されつつあるが、まだ本格的な水治療はそれほど行われていない。理由はいくつかあるが、一つには立位や歩行のできるプール施設を持つ病院が少ないということ、もう一つは水治療が学問的にまだ不十分にしか解明されていない点にある。つまり費用面と理論面(ソフト)の問題があるわけだ。 JATが佐世保共済病院と共同で開発した流水リハビリ装置「フローミル」は流体工学技術と医学技術を融合することで、これら諸問題をクリアしている。 「共済病院では探しておられたみたいですね、プールに代わるようなものを。それでたまたま当社のことがNHKテレビで放映されたのを見られて、なんとか作れないかといってこられたのがきっかけです」 同社の谷口大専務によれば、流水リハビリ装置の開発は佐世保共済病院から持ち込まれている。 すでに各種の回流水槽、流水バスを開発している同社にとってフローミルの開発は格別難しいものではなかった。装置自体は回流水槽とトレッドミル(歩行ベルト)を組み合わせたもので、技術的には同社の中ですでにローテクに属するものである。 ここでちょっとフローミルの特徴を述べておこう。
1.プール建設に比べて1基2400万円と価格が安い。
2.装置全体のサイズは3.9×2.4×1.6bと省スペースである。
3.使用水量が3.5dと少ない(病院の付属プールは平均30d)。
4.装置の側面がガラス張りだから水中の状態が正確に観測できる。
5.水中に入らずに患者の指導、介助ができるので、セラピストの肉体的負担が軽い。
6.専用の移動リフトにより、歩行困難な患者でも車いすから安全かつ楽に移動できる。
7.水流、トレッドミルの速度、水温、水位が簡単に調節できる。
1.〜3.は経済性、4.〜7.は安全性、操作性、快適性である。だが、こうした特徴のみで「九州、関西、関東の20病院に納入」し、同社の売上高の30%を占める主力製品に成長できたわけではない。重要なのは付随しているソフトである。そしてそのソフトを担当したのが佐世保共済病院である。 同病院整形外科の萩原博嗣医長は「新しいプール治療装置の開発とその応用」の中で、プール治療の特性について次のように書いている。 「プールの中では……転倒したり誤荷重したりする心配はまったくない。このことは下肢障害の機能訓練にあたって特筆すべき利点である。……術後いかに早く歩行を開始するかという切実な課題に対し、プール治療は有力な手段となるものである」 同病院は1988〜1992年に335例のプール治療を実施している。こうしたデータがすべてフローミルのソフトとしてユーザーに提供されるのだ。 実は技術系中小企業の最大の弱点はソフトである。ソフトが弱いが故に日を待たずしてマーケットから姿を消した製品は多い。ところが同社は、流水プールというローテクを医学技術というソフトを触媒にしてハイテクに変えることでこの弱点を克服している。
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