4.政府の対応が疑心暗鬼を増大
津波被災地の救援・復興と福島原発事故への対応を同時に行うという困難な仕事を前に、官邸は完全に機能麻痺状態に陥っているように見える。
いま対応の重点は原発事故の方に置かれている。という言い方が悪ければ、原発事故対応に追われ、被災地への対応に遅れが見える。「原発事故以後、まるで被災地のことは忘れられているような腹立たしさを覚える」と、仙台で自身も被災した作家の伊集院静氏が語っていたが、同感である。
やはりそれぞれに対策本部を設け、そこが全責任と全権限を持ち対応するという体制を取らないと、ますます対応が遅れ、国民は混乱し、パニックに陥るのではないか。
本来、国民の疑問を解消し、不安を抑えるのが政府の役目だが、このところ政府は逆のことをしているように見える。
その最たるものが原発事故の深刻度をそれまでのレベル5から、最悪のレベル7に2段階も引き上げたことだ。
レベル7はチェルノブイリ原発事故と同レベルだ。では、福島原発でも同じ状況に陥っているのかといえば「現在の避難指示区域などを見直す必要はない」と言う。従来の半径20km、30km圏内という同心円的な括りは改めたが。
結局、どういうこと? というのが多くの人達の疑問ではないだろうか。
危険度は増しているのかいないのかさえよく分からない。
これでは政府がいたずらに国民の不安を煽っているようなものだ。
そこで海外のニュースに目を転じてみよう。
フランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)のグルメロン放射線防護局長は「現時点で福島事故は極めて重大だが、チェルノブイリ級ではなく、将来そうなることもない」と4月12日に見解を発表している。(パリ共同)
同じく12日に世界保健機関(WHO)と国際原子力機関(IAEA)は「この事故が同レベルに評価されているチェルノブイリ原発事故に匹敵することを意味するわけではないと指摘」している。そして「人体への影響リスクが高まったわけではない」とも。(ロイター)
このように海外の評価は概ね冷静で、福島原発事故はチェルノブイリ原発事故とは異なると見ている。
その理由は放射線の放出量がチェルノブイリ事故の際の1割程度にとどまっている点、「現時点で、人体への影響リスクは30km圏外ではほとんどない」(WHO)点を挙げている。
また福島原発事故をレベル7とするなら原発事故の評価尺度をレベル8、9まで作らないといけないと述べる海外の専門家もいる。
もちろんこれらとは逆の見解もあり、東電の松本純一原子力・立地本部長代理は放射線の「放出量がチェルノブイリに匹敵する、もしくは超えるかもしれない懸念を持っている」と12日の会見で述べているし、「原子力業界で長い経験を持つフェアウィンズ・アソシエーツのチーフエンジニア、アーニー・ガンダーセン氏は、3基の原子炉と燃料棒プールが冷却機能を失うという事態は明らかにレベル7に相当すると指摘」(ロイター)している。
結局、最悪事態説を唱える人の見解を考慮しても、
1.福島原発がいますぐ爆発したり、火災を発生する危機にはない
2.放射線の放出範囲の拡大はほとんどない
3.放射線の累積線量は上がっているが、それは原子炉自体のこと
4.原子炉3基から漏洩した放射線量を合わせて、1つの事象だと考えた時にチェルノブイリ原発事故の際の放射線量と同じになったから、レベル7と判断(原子炉1基の放射線量がチェルノブイリ原発事故の時と同程度の放射線量になったわけではない)
ということのようだ。
こうして見てみると、今この時点でレベル7に上げなければならない差し迫った事態はないように思える。たしかに事故は最悪の事態を想定して対応策を準備しておかなければならないが、それをするなら初期段階だが、初期段階では甘い判断をしておいて、危機的状況ながらも多少均衡を保っている現段階でレベルを2段階も上げる必要があったのかという疑問は残る。また2段階も引き上げるなら、それなりの理由を明確に説明してしかるべきだが、納得できる説明はなかった。
説明が不十分だと疑心暗鬼を招く。なにか隠しているのではないかと疑う。でなければ2段階もアップさせるわけがない、と。
結局、政府自体が国民を不安に陥れているのだ。
5.知恵と行動の結集を
原発事故発生以来民間から様々なアイデアや協力が申し出られているが、それらがなかなか採用されないのはなぜか。
例えば4月12日、日本政府の要請によりドイツからプツマイスター社製の世界最大級のコンクリートポンプ車が日本に空輸され、原発への注水に使われているが、それより前、3月17日時点で国内の企業から同じプツマイスター社製のポンプ車2台を提供したいと東電、国に申し出があっていた。
ところが東電も政府も、その申し出を無視(?)している。もし、この時点で即採用していれば3週間のタイムロスが稼げたはずである。
こうしたことはほかにもある。
放射性物質を含んだ汚染水の処理が問題だが、放射性ヨウ素は半減期が8日と短いからそれほど問題ではないだろうが、放射性物質セシウムは半減期が30年と長い。そのためセシウムをいかに除去するかが問われているが、セシウムをゼオライトに吸着させて浄化する案が民間から提案されている。
天然ゼオライトは国内で多く産出される鉱物で、多孔質(表面に微細な穴が多く開いている)のためセシウムを取り込みやすいのだ。放射性セシウムを溶かした海水100mlに天然ゼオライト10gを入れて混ぜると、5時間で約9割のセシウムが吸着されるという実験結果が出ている。
このほかにも活性炭などもセシウムの吸着に効果があるとされており、これらいくつかの技術を組み合わせて使用すれば、汚染水はかなり浄化される。
こうした提案は1週間以上前からなされているし、4月7日には日本原子力学会の有志らが仙台市青葉区産の天然ゼオライトが有望だという見解をまとめて発表している。こうした動きを受け、14日にやっとゼオライトでの浄化に踏み切ることを政府と東電は決めたようだが、やはり対応の遅れが目立つ。
また原子炉冷却については、外付けの新たなシステムを設けて冷却する方法を元佐賀大学長の上原春男氏が政府に提案している。上原氏は福島原発の復水器設計に携わった経験があり、政府の要請を受けて事故発生直後から協議しているから、上原案も採用されるとは思うが、問題はスピードだ。
この際、有効だと考えられる提案は迅速に採用し、試みるべきではないか。初期対応が遅れている上に、その後も対応の遅れが目立つようでは困る。
とにかく今大事なのはスピードだ。それと国内外へ向けた対応メッセージである。
こういう方法がある。それをいま実施している(検討しているではない)。さらにこういう方法も考えている。そうすればいついつまでには危機を脱することができる。だから安心してください。
こういうメッセージを国内外に向けて早く発することが政治の役目ではないだろうか。
|