昨年末、懇意にしている某経営者からある決意を打ち明けられた。
その時は飲み会の席だったこともあり、さほど気にも止めず聞き流していたのだが、今年に入り二度もその話を聞いたので、本気なのだなと思うと同時に、敬服した。
私は同じ話を三度聞くと相手の本気度を信用するようにしている。逆に言えば、三度聞くまでは、あまり信じてないということにもなるが。
というのも、人は一度目は調子のいいこと、相手の耳に心地よいことを、その場の雰囲気、勢いで言うことがあるからだ。だから一度目の話はほとんどまともに聞いていない。だが三度となると別である。中には話の内容が微妙に変化したり、ほころびが出てくるものもある。まあ大体、人は三度目ぐらいに本当のことを言う。
だから三度も聞けば相手は本気と見ていい。こちらもそれなりの態度で聞かなければならない。
さて、冒頭の社長の決意である。
今春、福岡から札幌まで歩いて行くという。
「社長、そんな無茶はお止めになりませんか」と、最初は止めていた。
札幌に娘家族がおり、その娘に子供が生まれたので会いに行く。同じ行くなら歩いて行った方が健康にもいいし、娘家族もビックリするに違いない、と聞いたからだ。
「若い内ならまだしも65歳だし」と言いながら、70歳過ぎてエベレストに登っている人もいるので「歳だから」とは言えないかと、むしろこちらの体力のなさ、挑戦心のなさを恥じた。せいぜい「あまり無理をなさらずに歩いてくださいよ」というほかなかった。
それにしても本当に娘家族に会いに行くためだけで「日本縦断」を決意されたのか、日数はどれだけかかるのか等々の疑問が残る。
社長の話では出発は5月1日。1日20q歩行として、札幌に到着するのが9月10日の計画。その日はご本人の誕生日で、誕生日を孫と一緒に祝ってもらえると喜ばれていた。
ところが、よくよく聞いてみると、札幌行きは単なるきっかけにしか過ぎず、真の目的は別にあったのだ。
それは次のようなものだった。
1.情報収集と市場調査
札幌に行く道中に同社の工場や取引先会社などが点在しているので、それら、特に取引先会社を訪問するのが第1の目的。
デジタル全盛時代だからこそ大事な情報はFace to Faceでしか伝わらない。
デジタル時代は情報はネット上に溢れており、なにもわざわざ相手に会わなくても欲しい情報はいくらでも、簡単に、誰でも手に入れることができるように思われるが、それは大いなる誤解である。
誰でも入手できる情報は誰もが知っている情報にしか過ぎず、そういうものには大した価値がない。本当に知りたい情報はますますFace to Faceで顔を合わせて得るしかないのだ。
ネット上で得るデジタル情報は文字にされたものだけだが、直接会って話をすると相手の表情、間の取り方などから言葉の裏の意味、隠された意味まで得ることができる。
さらには事務所や工場の中を見れば相手の内容を推察することもできるし、思わぬ商談が生まれないとも限らない。
「先方さんに会って色々話をしている中で結構ビジネスチャンスが生まれるものです。いままでもそういうことが結構ありましたよ」「地域によってよく出る商材も違いますし、そういう市場調査を実地にするのが目的なんです」
とはいえ、同じ先方を訪問するにしても新幹線や車で行くのではなく、「博多から歩いてきた」というと、相手はそれだけで驚くだろうし、話の糸口としてはいいし、先方に入り込みやすいというしたたかな計算も働いているようだ。
(2)に続く
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