甘いものを指して「蜜の味」と言うが、この世で最も甘いのは「権力」という蜜の味だろう。一度この味を覚えると、よほどの清廉潔白の氏でもない限り、その虜になり、最後は身を滅ぼしてしまう。その好例が前と現東京都知事だ。
人を虜にする権力
それにしてもなぜ、彼らは東京都知事という椅子に魅せられ、それにしがみ付いているのか。それほど知事という椅子は魅力的なのか、それとも東京都知事の椅子はほかの知事の椅子より格別に座り心地がいいのか。
例えは悪いが、道府県知事の椅子が汎用品の中でちょっと高級な椅子だとすれば東京都知事の椅子はオーダーで別誂えした椅子ぐらいの違いだろう。部課長の椅子と大企業の社長の椅子ぐらいの違いと言った方がいいかもしれない。機会があれば一度座ってみるといいだろう。背もたれの高い椅子に腰を下ろした途端、自分が偉くなったような気になるはずだ。
そう感じるのは椅子の作りがいいからだけではない。社長室の空間的な広さや、そこに設えられてある調度品などからも受けるだろうが、なにより実感するのは部下が自分の指示一つで動いたり、指示を窺いに部屋にやって来るからである。こうして人は権力を実感し、その力を自分自身の力と勘違いしていく。
これが権力という力の全てではないし、人が権力に魅せられる全てではない。権力の魔力は象徴的、感覚的、情緒的な部分よりは、その裏に潜んでいる実利的な部分(甘い蜜)にこそある。あるいは実利的な裏打ちがあってはじめて権力が力を持ちうる。
人が権力に魅せられ、一度手にすると離したくないとしがみ付くのも権力がその裏で実利的な部分を持っている、実利的な部分とくっ付いているからである。そのことを白日の下に晒したのが前・現東京都知事だ。
権力は恐ろしいことに人の顔さえ変えてしまう。前・現東京都知事2人の顔もビフォー・アフターでまるで別人のように変えてしまったが、ビフォーよりはアフターの顔の方がその人の本質をよく映し出しているように見えた。
特に変化が大きかったのは舛添氏の方で、絶頂期の得意満面の顔と、公私混同疑惑を議会の集中審議で厳しく質問されている時の顔はとても同じ人とは思えないほどの変わり様だった。私には映画等で出てくる悪人面とダブって見えてしまった。
都知事になりたがる理由
それにしてもなぜ、彼らは東京都知事になりたがったのか。それほど都知事の職は魅力的なのだろうか。
まず知名度。たしかに全国46知事の中で東京都知事の知名度は群を抜いている。○○県の知事の名前は知らなくても都知事の名前を知らない人は少ないだろう。しかし、知名度が高いだけでは自己PRにはなっても、実利面ではほかの首長とそれほど差がない。名誉欲が満たされるだけだ。
金銭欲が満たされた後に欲しがるものは名誉欲とはよく言われるし、実際1代で財を成した人が、その後社会的地位を欲しがるのはよく知られている。それが子供が通う学校のPTA会長職であっても。
ただ、品格、品位は1代で身に付かず、3代続いて初めて身に付くと言われるように、カネでは手に入らないものもある。そして社会的地位、特に公職はその一つである。であるが故に1代で財を成した人間ほど公的な役職を欲しがるようだ。
前都知事の猪瀬氏も欲しかったのは都知事という名誉だったのか、それとも都知事に付きまとう権力という力だったのか。
彼は以前にも少し触れたが「ミカドの肖像」という労作を著すなどノンフィクション作家としての地位をすでに築いていたし、それなりの稼ぎもあったはずである。政治の世界にさえ近づかなければ、と思うが、やはり「もっと、もっと」という欲があったのかもしれない。
彼が政治の世界に近付き、マスメディアで脚光を浴び出したのは小泉内閣の時から。2002年に道路関係4公団民営化推進委員会委員に就任し、高速道路建設のムダ遣いを厳しく追及していた姿はまだ記憶に新しいはず。そこでやめておけばよかったのに石原慎太郎都知事(当時)に口説かれ(?)副都知事に就任したのが間違いというか、その頃から上昇志向がさらに強くなっていったようだ。
意外だったのは副都知事当時には必ずしも賛成していなかったオリンピックの東京誘致に都知事就任以降、賛成に回り、積極的な旗振りをしだしたことだ。財政のムダ遣いカットを主張していた、それまでの猪瀬氏の姿勢からいえば明らかな転向に映り、違和感を覚えたのは私一人ではないと思うが、どうだろう。あるいはそれが彼の本質だったのかもしれないが。
そしてなにより印象的だったのが、辞職時に「次の都知事はオリンピック招致に積極的な人を」というようなことを述べていたことである。辞職の弁が「オリンピック」かと強烈な違和感を覚えたものだ。
そして舛添都知事もリオ・オリンピックの閉会式典への出席に異常な拘りをみせていた。2代続けて、いやその前の石原氏の時から3代続けてオリンピックに異常に執着しているのを見ると、都知事職とオリンピックの間になにかあるのかとあらぬことまで考えてしまう。
(2)に続く
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