言葉が信用できない政治家
昨今の政治家ほど言葉を軽く使う人間はいない。本来、政治家は言葉を大事にしていたはずだ。かつて言葉は言霊(ことだま)と呼ばれ、言葉には霊が宿っている、言葉には不思議な力があるとさえ考えられていた。だから言葉は大事にされた。それはいまでも変わらない。大は憲法から小は友達との約束まで、全て言葉で成り立っている。
ところが政治家の言葉ときたらどうだ。「検討する」「前向きに」は何もしないという意味だし、「しない」は「する」と同義語で「200%ない」と言った舌の根も乾かぬうちに府知事選に出た輩もいる。
こういう風潮が政界では当たり前になっているから選挙前の「公約」は膏薬程度の粘着力もなく、選挙が終わればすぐ剥がれ、あとは好き勝手。消費税増税は社会福祉のためと言っておきながら、いざ選挙になれば不利と増税延期を言い出す始末。これでは「戦争しない」は「戦争する」、「改憲目的ではない」は「改憲目的」ということと同義語でしかない。
こうして言霊から「だま(魂)」を抜かれた言葉は、単に口から出る声と化している。それは獣の叫び声や鳥の鳴き声と同じで、思考の具ではない。言葉が言霊でなくなり、叫びや記号と同じになってしまった後でも、彼らの口から発するものが「言葉」であり、単なる「言の葉」ではないように装おうと形容詞を付けてきた。舛添氏が「厳しい第三者の目で」「しっかりと」と連発すればするほど虚ろに響くのはそのためである。中身のなさを衣を立派にすることで中身があるように見せかけようとしているわけだ。
とはいえ、この方法が彼にとって全くムダだったわけではない。「ご指摘を胸に刻み、しっかりとやっていきたい」と「しっかり」を連発するうちに都議、都民の怒りは辞任に向かい、疑惑解明、不完全な制度改革から多少目を遠ざける効果があったからである。かくして辞任表明とともに「武士の情け」とやらで、これ以上の追及はなし、これにて一件落着とばかりに幕引きが図られた。いつもの見慣れた光景である。
舛添前都知事と「号泣議員」の共通点
「号泣議員」と舛添氏には共通点がある。まず「号泣議員」の記者会見の様子を思い出してみよう。彼は号泣しながら、自分が議員になった理由、議員になり何をやりたかったのかを次のように訴えた。
「議員というそういう大目標のなかに……。もちろん、政務調査費、政務活動費、ものすごい大事ですよ。大事ですけれども、議員というそういう大きい括りのなかでは、極々小さいものなんです」
「少子高齢化を解決したい」「この世の中を変えたい」(という思いで議員になったのに、なぜそれを分かってくれないのか、と)。
そう、彼には議員になって「少子高齢化」問題を「解決したい」、「この世の中を変えたい」と彼なりに考えたのだ。そんな高尚な理想の前では「政務調査費、政務活動費」の私的利用という「小さな問題」で、自分を追い詰めるのか、と。
舛添氏も同じようなことを言っている。
「東京を世界一の街にするために知事になった」。実は当初、言っていたのは「世界一の福祉都市」だったが、いつの間にか「世界一の都市」という抽象的なものに変わっていた。この辺りにも彼の理念のいい加減さが窺えるが、舛添氏自身は気付いていない。
辞任するにあたり「最も懸念いたしましたのは、オリンピック・パラリンピック大会への影響」というから何とも情けない。都民の生活など端から頭になかったようだ。
結局、彼が目指したものは「世界一」とかオリンピック等の華々しい舞台で自身が注目を集めることだったようで、その認識のズレが都民との間にあったことに最後まで彼自身は気付いていなかった。
結局、「号泣議員」も舛添氏もそれぞれに描いていた「理想」があったのかもしれないが、言葉を変えればそれは個人的な野心だったり、野心とまでも言えない、もっと卑近な生活支援、ちょっと贅沢をしてみたいという思い程度のものではないか。権力者は何をしてもいいんだ、という奢りも多少はあったかもしれないが。
見苦しいのは都議会で不信任案が提出される前日の「お願い」である。そこで彼は不信任案の提出を9月まで待って欲しいとお願いしているのだが、その理由がなんともバカらしいというか情けない。ここでも挙げているのがオリンピックである。選挙時期がリオ・オリンピックに重なるのでイメージ的にマイナスになる。だから9月まで不信任案の提出を待ってくれ、と言いっているわけだ。
彼の魂胆は見え見え。9月の段階で「私が都知事としてふさわしくないとご判断をなさるときはご判断いただきたい」。早い話、9月まで先延ばしすれば都民も都議会も今回の件を忘れているに違いない、そうすればさらに都知事でいられるという自身の延命策以外の何物でもない。なんとも情けない。「私が知事の座に恋々としているわけではない」なんてのは嘘っぱちで、「恋々としている」のがあまりにも見え透き、なんとも情けない(とまたもや言わざるを得ない)。結果、石持て追われるように都庁を、職員の見送りもなく無言で去ることになったのは身から出た錆とはいえあまりにも寂しい。
(4)に続く
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