被災地で被災者を雇用し、自立支援
キャッシュ・フォー・ワーク(Cash for Work)とは災害後の復興事業に被災者を雇用し賃金を支払うことで、被災者の自立を助ける支援方法。過去には、津波被害を受けたインドネシアやハイチの大地震などでNGOや国連機関により実施され、効果を上げた実績もある。
この方法を東日本大震災の被災地でも実施しようという動きが起きている。すでに一部のNPOやボランティア団体などでは似たような形で被災者の雇用を始めているところもあるようだが、個々バラバラに行うのではなく共通した認識を持ち、核となる考えやプランを提示し、国を動かしていく必要もあるとの考えから、関西大学社会安全学部准教授・永松伸吾氏がキャッシュ・フォー・ワーク・ジャパン(CFW-Japan)というネットワークを立ち上げ、活動している。
前章でも見たように、被災地から遠く離れた場所に住居だけ提供しても現実的にはなかなか移り住めない。最善の策は仕事と住居をセットで提供することである。しかし、この方法も被災地から離れた場所への転居となると諸手を挙げて歓迎という形にはならない。実際、応募者数も思ったよりは少ないようだ。というのも、長年現在地に住み続けた中高年はコミュニティーとのしがらみや繋がりも強いし、家族、特に高齢家族や親族を抱えていると、遠く離れた地には移住しにくいという事情もあるだろう。
となると、ベストの選択は被災地エリアで職住を確保することだ。それができれば苦労はない。できないから皆困っているのだ、という意見もあるだろうが、必ずしも不可能ではない。もちろん、以前の職業をそのまま続けられるのが一番だが、それが現実的に難しい場合(ほとんどそうなると思うが)は、他の職業での雇用を目指さざるをえない。
あくまでも緊急避難的な雇用である。しかし、数日とか数週間の短期バイト的なものではなく、少なくとも数か月の中期的雇用であれば、その間に次の生活設計もできるだろうし、またそうすべきである。
具体的に言えば、農水産業等第1次産業は回復までにしばらく時間がかかる。最短でも1年やそこらはかかるだろう。そうすると、その間の収入をどうするのかという問題がある。もちろん支援や補償もあるだろうが、人が仕事をするのは収入のためだけではない。生きがいや希望、喜びと密接な関係がある。それは被災地で被災者自身がボランティア活動に従事していることからも分かるだろう。ただ無償ボランティアでは収入面で活動が長続きしなくなる。そういう意味では有償ボランティアがあってもいいだろう。
キャッシュ・フォー・ワークの詳細はNGO組織「オックスファムジャパン」のホームページや前出の関西大学社会安全学部准教授・永松伸吾氏が提唱する「CFW-Japan」のHPを参照して欲しい。
いずれにしろ被災者の自立を助ける中期的な活動が必要という認識は共通だ。また、こうした方法が身を結べば、労働の対価としての給与という従来型の雇用形態を超えた多様な雇用形態がある程度定着する可能性もあるだろう。
現在ボランティアで被災地支援に入っている人達に対しても全面的に自腹支援活動を要求するのではなく、最低限交通費は義援金等の中から賄うなどの方法も考えられていいと思う。
最後に蛇足ながら、人の善意も日数とともに薄れる可能性は否定できない。しかし、本当にボランティアの支援が必要になるのはむしろこれからだろう。
被災地に入った人達が「逆に元気をもらった」とよく語っているが、外部の人と接する時は被災者にとって「非日常」だということを忘れないように。ボランティアも含め外部の人が帰った後、例えば夜とか一人になった時が日常で、その時に悲しみが襲ってきているのである。そういう意味では、被災者はいつも悲しんでいるに違いないという見方も間違いだ。笑う時もあれば悲しむ時もあるのは当たり前だ。それで精神のバランスを保っているわけで、今後、長期に渡り専門家を含めた精神的ケアが必要になるだろう。その方面のボランティア活動(有償、無償を含め)も望みたい。
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