栗野的視点(No.666) 2019年8月6日
格差を拡大するキャッシュレス政策
10月1日から消費税が従来の8%から10%に上がった。ところが、これがややこしい。基本的には10%だが食料品など一部は8%のままだという。これだけでもややこしいのに持ち帰りと店内飲食では税率が違うというし、店によっても違うとなれば何が何やら訳が分からない。
さらに複雑にしているのがキャッシュレス還元だ。キャッシュレスとはプリペイド式カード・アプリやクレジットカードで支払えば払った金額の何%かが還元されるというものだが、これが5%還元だったり2%還元だったりと一定ではない。さらに支払うカードやアプリ、あるいは店によっても違うのだから、利用する方もされる方もチンプンカンプン。レシートを見てもさっぱり分からない。
こんな制度をよくもまあ導入したものだと思うが、なぜ導入したのか。メリットばかりでデメリットはないのか。これを便利社会というのだろうか。とてもそうとは思えない。むしろ格差拡大を招く不平等社会ではないかと思うがーー。
消費者、小売店ともに混乱、困惑
今回の消費税増税はしっかり議論を尽くして導入されたとはとても思えない。第一、増税の一方で増税分以上を還元しようというのだから、おかしな話だ。それでも一律還元ならまだ分かるが、キャッシュレスで買い物をした人にだけ還元する、それも一律ではなく5%還元だったり2%還元だったりするとなれば不平等としか言い様がない。国の施策が不平等、不公平でいいはずがないだろう。
例えばスーパーで買い物をすれば食料品は8%だが、一緒に買ったビールや日本酒などのアルコール類には10%の消費税がかかる。これでは電卓でも持ち歩かなければレジで支払う前に計算ができない。支払い後にレシートをみて、「○○は8%で△△は10%だったのか」と気付くぐらいだ。
最近、某衣料品店で買い物をした時のことだ。キャッシュレス還元を受けられるかと思いクレジットカード払いにした。その時の店員の返事が「一括払いならできます。一括払いでいいですか」という言い方に少し違和感を感じ、後で確認すると、その店(チェーン店)はキャッシュレス還元店ではなかった。
このようにキャッシュレス清算ならどの店でも還元が受けられるわけではないのだ。となると、「消費者の利便性向上」という謳い文句とは逆に、消費者にとって使い勝手がいいとは言い難い。
また地元の小さな商店ではキャッシュレス還元店になっていないところも結構あるらしい。今回のキャッシュレス導入政策が中小の小売店救済策の意味合いを持っているにもかかわらず、現実にはその通りになっていないというか、本来救済すべく中小小売店は逆に置き去りにされている。
なぜ、こんなことが起きるのかといえば、キャッシュレス還元店になるには申請する必要があるからだ。では、申請すればいいようなものだが、申請する店と申請しない店があるのはなぜか。
小売店側にすれば申請するメリットとデメリットを考えなければならない。メリットはキャッシュレス還元店を謳うことによって、恐らく客が増えるのではないか(売り上げ増になるだろう)という目論見だろう。目論見通りに行けばいいが目論見が外れれば申請手続きその他の労力や煩わしさがムダになる。
一方、デメリットはキャッシュレス還元店に申請するために経費がかかるということだ。端末台の費用がかかる。それでなくても新消費税に対応したレジスターの導入に約400万円近くかかるなどとも言われているから尚更だ。そんなに費用と手間がかかるくらいなら、効果があるかどうか分からないものに参加しなくていい、と考える店が出てくるのは当然だろう。
キャッシュレス還元と言っても期間は来年(2020年)6月末までだから、地域密着で固定客が大半というような商売をしているような店にとってはメリットはほとんどないといってもいい。
とにかく今回の制度は付け焼き刃的に導入したためか欠陥だらけで、「中小小売店の救済」という目的があるため全国チェーン店は対象から外されている。だが全国チェーンといっても、実際はフランチャイズ展開で、一つ一つの店舗は個人経営の小さな店ということも多い。それでも全体で見れば中小の枠外となり、キャッシュレス還元店から外されており(2%還元もある)、そういう店からは不満の声が出ているのも事実だ。
かと思えば店主一人でやっているような店内スペースも小さな店に「キャッシュレス還元」の幟が立っていたり「Pay Pay使えます」という表示があったりしてビックリする。TVCMに釣られたのかどうか分からないが、「それって効果がある?」とつい疑いの目で見てしまう。
(2)に続く
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