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日本の製造業はなぜ衰退したのか(5)
〜デジタル革命が原因


デジタル革命が原因

 結局のところ、日本企業が自ら招いた種である。海外に工場を移転し、生産する以上、技術も一緒に移転、漏洩せざるを得ない。シャープの亀山工場は情報防衛のためにも国内生産にこだわり、工場を丸ごとブラックスボックス化したが、一つの成功に気をよくして、さらなる量産体制に入るべく大設備投資をして堺工場を建設した。
 ところが完成した時は時代が変わっていたため、堺工場は期待された能力を発揮することもできなかった。つい、戦艦大和の運命とダブって見えてしまった。もう少し早く完成していれば活躍の場はまだあったかも分からないが、護衛機も護衛艦もなければ、どんなに高い能力を備えていても戦いには勝てない。いや、戦い自体が成り立たない。それと同じで、市場がなくなれば最新鋭の設備を備えた工場も役に立たない。
 パナソニックもプラズマTV、後に液晶を主力にしはしたものの、TV市場にこだわり続けたが故に、時代の変化を読み違えてしまった。
 一方、ソニーのように早くからグローバル化していた企業も同じように凋落したのだから、グローバル化も、国内生産も効果がないということになりそうだ。どこが問題だったのか。

 原因はデジタル革命である。デジタル化は処理速度と処理能力を飛躍的にアップし、商品のコンパクト化、新商品の開発に大きく貢献しただけでなく、製品の作り方そのものまで大きく変えてしまった。
 それでもまだ初期には日本企業の優位性は保たれたが、大量に生産された部品が出回るようになると(それを作ったのは日本企業だが)、それらの部品を入手し、組み立てるだけで同じような性能の商品が、いとも簡単に作られるようになった。
 アナログ部分は個体差があり、それらをいかに均一化するかということが大変で、そこに技術があったが、デジタル製品になるとアセンブリ(組み立て)時の精度の問題のみで、それもハンダ付けがきちんとできているかどうかという程度(もちろん、それも重要なことではあるが)の、少し慣れれば誰でもできる作業、あるいは機械がすぐ取って代われる技術で、長年その分野に従事している企業も昨日今日参入した企業もほぼ差がない製品を作ることができるようになった。
 要するにデジタル化の進行により先行技術の優位性がなくなったのだ。

 こうなるとメーカーよりアセンブリ企業の方が有利になる。最近、シャープの経営再建の件でにわかにクローズアップされた鴻海(ホンハイ)精密工業(フォックスコン)などがその代表格だが、いままで黒子だったEMS(電子機器受託製造)企業が黒衣(くろご)を脱ぎ捨て表に出だしたのも、そうした時代の反映だろう。

 それにしても下請けという意味では日本の中小企業がいままでやってきたこととさして変わりはないように見えるが、台湾のEMS企業とどこが違ったのだろうか。誤解を恐れず大雑把に言ってしまえば、恐らく日本の下請け企業は1社依存体質が強かった(系列を重視した大企業文化の影響もあるが)ことや、メーカー信仰のようなものがあり、小さくてもメーカーになりたいという考えが強く、下請け受注企業として甘んじるのを潔しとしない風潮も邪魔をしたのではないだろうか。
 デジタル化が進めば進むほど、アンカーメーカーは技術の独自性より営業力と、いかにましな部品を集めてフレキシブルにアセンブリするかの方が問われてくる。その場合、アセンブリラインの柔軟性がものを言う。シャープの失敗の一つはラインの硬直性にもあったようだ。

台湾メーカーに握られた命運

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