ITは私達の生活や仕事を便利にしてくれたが、その一方で人々から思考を奪い、ロボット化し、70億総白痴化をなしつつある。その弊害をもろに受けているのが企業だ。仕事の効率化、情報の一元化を目指して導入したPC、タブレット、スマートフォン(スマホ)などのIT機器が逆に作用し、社内のコミュニケーション不足、現場情報不足、仕事の非効率化を招いているというのだからなんとも皮肉だ。そこでこれらの機器の使用を社内や部署で禁止しだした所もある。
社内、部署からPCを追放した企業
デジタル化が我々の生活を便利にしたのは疑う余地がない。にもかかわらず、それらの使用を禁止、あるいは制限しようというのだから、よほど時代遅れの企業、頭の古い経営者だろうと多くの人が思うに違いない。それが逆なのだ。それもIT関連企業がITを否定するような動きを取っていると聞けば、経営者なら多少なりとも興味が湧くのではないか。
もの事は広がっていく過程で弊害も目立ってくる、というのは万物に共通する法則であり、デジタル機器(デジモノ)も例外ではない。パソコン(PC)は仕事の効率化を図る道具だったが、広く普及し始めてくると逆の現象も目に付きだしことはよく知られている。PCの前に座りながら仕事をしている振りをする「フリ社員」が増えていたのだ。
さすがにいまはそこまでの社員はいないと思いたいが、現実には私用メールの交換、インターネットの閲覧等に多くの時間を費やしている社員は想像以上に存在しているようだし、IT化で逆に雑用が増えた側面も指摘されている。
直接伝えるか、電話すれば済むことを、いちいちEメール(以下メール)で送ってくるものだから社内メールを読むだけで午前中が潰れ、上司は仕事ができない。
出社するとすぐPCに向かうし、昼休みはひたすらスマホの画面を見ている者ばかりで、社内から会話する声が聞こえなくなった。
ミーティング中でもノートPCでキーボードをカタカタと打つだけで発言しない。分からないこと、気にかかることがあると、すぐスマホを取り出して検索する。
こんな社員が増えていると言う。これでは社内コミュニケーションがなくなるのは当然だ。
インターネットは情報収集の便利な道具だが、誰でもが自由にアクセスできる時代になると、ネット上の情報に特別性はなくなる。競合各社も知っている一般的な情報でしかない。そうしたものに頼っていてはライバル企業との競争に打ち勝つことも、斬新なアイデアも出てこないだろう。
必要なのは現場の生情報の交換だが、上司は毎日大量に送られてくるメールに追われているし、社員は昼休みでもスマホの画面しか見ていない。結果、かえって情報不足、情報の共有ができなくなったという声も聞く。
そのため社内メールを禁止したIT企業もある(「栗野的視点No.443:ネット利用を制限する企業が増えている」参照)。
IT系企業だからデジタル化による弊害にもいち早く気付くのか、キャノン電子のようにPC操作を制限している大手企業もある。
同社は午前9時半にならないとPCの操作ができない。「使ってはいけない」ではなく、使いたくても「使えない」のだ。時間にならないとプログラムが起ち上がらない設定にしているというから徹底している。
アイリスオーヤマは共用PC1台、利用は1回45分以内と定めている(「栗野的視点No.442:中小企業はアイリスオーヤマを見習え。」参照)し、未来工業は3年前に営業部のPC83台を全廃した。(「栗野的視点No.397:未来工業に見る、社員のやる気を引き出す経営」参照)。
PCを操作している時間があれば顧客に会いに行き、生の情報を収集して来い、というわけだ。
メール、PC利用を制限した結果どうなったのか。3社とも売り上げがアップしているのだ。ITを使うつもりが、ITに使われていたということだろう。
(2)に続く
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