「ゲンパツ(減髪)」は即・脱停止にしたい。


 このところ私の頭の中を占めている問題が2つある。1つは「ゲンパツ」。もう1は弟の容態だ。ともに年明けから急変してきた点が共通している。
 若い頃は「ゲンパツ」など考えたことも、気にかけたこともなかった。それがどうだ。歳とともに「ゲンパツ(減髪)」が気になりだしたではないか。といっても、この10年程だが、その間に少しずつ「減髪」が進み、いまでは誰の目にもはっきりと分かるようになった。
 もはや隠しようがない。かといってよその傘に頼ったり、木を植えてごまかすようなことをして「ゲンパツ」を隠したいとは思わない。第一、そんな方法は結構金がかかる。
 いや、正直に言うと、まだ足掻いている。できることなら「ゲンパツ」を即止めたい。せめて小泉元首相のようになりたい。それがかなわぬとしても、脱「ゲンパツ」は堅持したいと考えている。
 親父は40歳前後から「減髪」推進派だった。弟は親父に似たのか50歳前後から徐々に「減髪」推進派になり、いまでは完全「減髪」推進派になっている。

 私は頑として「ゲンパツ」反対だ。ところが、そんな私に弟が言い放った。「いまはそんなことを言っているけど、間違いなく兄貴もそうなる。お祖父さんも叔父さんも若い頃から「減髪」派だった。家系だ。今は偉そうなことを言っているけど、兄貴もそのうち立派になるよ」と。
 冗談じゃない。絶対「ゲンパツ」反対。負けてたまるか。断固反対を貫くぞ。そう固く決心して朝晩手入れに余念がなければいいのだが、元々が面倒くさがり屋の日和見主義者ときているものだから、ついつい手入れを怠る。かくして少しずつ「減髪」の兆候が表れてきた。
 まずい。このままだと隠れ「ゲンパツ」推進派とバレてしまう。それならいっそのこと、木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中というから、森とはいかないが林ぐらいの周囲の木の中に隠れようとしたけど、高さを揃えなければ逆に目立ってしまう。
 そこで妻の他界をきっかけに得度したと言い訳して坊主頭に。といっても剃髪するまでの根性はなく、せいぜい短髪にした程度だが、それで「ゲンパツ」推進派への転向を懺悔した。

 これでなんとか丸く収まると思ったのは大いなる勘違いで、年明けから一気に、容赦なく「減髪」が進んだからたまらない。センパツした翌朝にも脱退者が相次ぐ有り様だ。育毛剤を振り掛けマッサージして、脱毛するようではもう止められないかも。
 それでも私は即時「ゲンパツ(減髪)」停止、脱「ゲンパツ(減髪)」を唱えたい。絶対、「ゲンパツ(減髪)」ハンタ〜イ!

 あ〜、こんなことで頭を悩ますものだから、ますます減髪が進む。
それ以上に頭を悩ませているのは弟の病気のことだ。
 まさかと思ったが、弟が妻と同じ膵臓ガンになったのが1年半前の夏。妻とは直接血の繋がりがないのに同じ膵臓ガンになるとはなんという運命の皮肉。ただ、妻の時とは違って手術できたのが幸いし、昨秋までは健康人と変わらぬ生活が送れていた。
 それが急変したのが年明けから。食事を受け付けなくなり、痛みが増してきたと聞き、私は即再入院を勧めた。
「できるだけ自宅で過ごしたいんや。入院するともう・・・」
 言わんとすることは分かった。入院すると病院で最期を迎えることになりそうだから、できることなら入院したくない、という考えなのだろう。
 すでに昨秋、医師から「春がヤマ」とは宣告されていた。
「大丈夫だ。入院したからといって自宅に帰れないということはないんだから。体調が落ち着けば外泊もできるし。入院して管理してもらった方が安心だ。そうしてくれ」
 今まで私は弟に治療法や入院先で指図したことはない。こういう治療法もある、こういう病院がある、ということを情報として伝えはしたが、どの方法がいいとか、何を飲めなどとは一切言ってこなかったが、この時だけは「すぐ先生に相談して、入院させてもらってくれ」と、初めて強く勧めた。

 結局、弟は私の意見を入れ、数日後に入院した。それを聞き「できるだけ早く見舞いに行くから」と本人に電話すると、「寒いのに慌てて来なくていい。元気なんだから。暖かくなってからでいい」と元気そうな声が返ってきたのでひとまず安心していた。
 その1週間後、状況が変化した。電話口で「兄貴、早く来てくれ」と言ったのだ。聞けば相変わらず食事ができないから点滴で栄養補給し、痛みの頻度が増し、痛み止めのモルヒネ系の薬は6倍の量を服用するようになっていた。
 その言葉を聞いて私はすぐ神戸の済生会病院まで駆け付けた。主治医に会って状況を尋ねると「長くて数か月。急変すれば早まる」と言われた。さすがに余命のことは弟に言えなかったが、ある程度は察していたのだろう、別れ際にベッドで寝たまま握手を求めた弟の目から涙が流れ、顔を手で覆った。
 人生はあまりにも不条理。そんなことを最近つくづく感じている。




(著作権法に基づき、一切の無断引用・転載を禁止します)

トップページに戻る 栗野的視点INDEXに戻る










サントリーウエルネスオンライン

サントリーウエルネスオンライン

αGヘスペリジン