災害が独裁化に利用される
内憂に外憂を利用するのは昔から使われてきた手法だ。今ある不満から目をそらせ、あるいは忘れさせ、国民を一つにまとめるには、目を外に向け、外敵に対して一致団結して当たろう、と喧伝するのが最も効果的で、それまで下がっていた内閣の支持率もそれを機に上昇に転じる。
日中戦争、日米戦争の開戦もこうして行われたし、戦後生まれの戦争を知らないフランスの若き大統領などは、よりはっきり「ウイルスとの戦争」とまで言い切った。これでジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)運動はほぼ消滅に向かう、少なくともこの「ウイルスとの戦争」が終わるまでは。そしてこの「戦争」に勝利した勲章はマクロン氏に贈られ、彼の功績の1つに数えられるのだろう。
同じことがこの国でも行われている。新型コロナウイルスを機に一斉休校を「要請」したばかりではない。改正新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)が国会で成立したが、キモは首相が「緊急事態宣言」を発することができる点にある。
今回の特措法に「改正」と付いているのは新型インフルエンザ等対策特別措置法はすでにあるからで、ではどこが改正されたのかと言えば、「緊急事態宣言」を首相が出せるようにした部分の追加である。
自民党の中には今回の「コロナ騒動」を「改憲の好機」と捕らえた向きもあるようだから、まさにそのことがよく物語っている。
日中・日米戦争の場合もそうだったが、こうした場合に重要な役を演じる脇役が必要だし、名(迷)脇役の存在こそ不可欠である。
名(迷)脇役とは野党と大手メディア(特にTV)だ。そしてその思惑は見事に当たり、立憲民主党と国民民主党の野党は特措法にさっさと賛成した。この際、立憲民主党は党名から「立憲」を外した方がいいだろう。
当初、野党は「国会による事前承認」(緊急時は事後承認)を明記することを求めていたが、その後の与野党協議で付帯決議に「国会に事前に報告する」という文言を盛り込むことで野党は賛成に回った。
念のため記しておくが、事前「承認」ではなく、事前「報告」。それも付帯決議にである。政府は付帯決議の内容を尊重するよう求められるはするが、付帯決議そのものに法的な拘束力はない。この内容も守ってくださいよ、という意思表明にしか過ぎないのだ。
それに異を唱えたのが立憲民主党の山尾志桜里議員だ。山尾氏は元検察官だけあり、法には厳しく、筋を通す。
緊急事態宣言は外出自粛要請など政府により私権が制限される特措法であり、国会による事前承認という最低限の歯止めをかけなければ、次々に私権が制限される危険性がある、と反対していたが、3月18日、立憲民主党に離党届を出している。枝野よ、彼女の爪の垢でも煎じて飲め、と言いたい。「立憲」の名が泣いている。
こうした構図はまさに日中戦争に突き進んで行く前夜にとても似ている。緊急時だからと権力に全権を与えることがどれほど危険なことか。この国は先の大戦で学んだはずなのに戦後70数年で健忘症になりすっかり忘れたのか、記憶の端にも残ってないのか。
さて、もう一方の名(迷)脇役の存在も忘れてはならない。TVの常とは言え、これでもかとばかりに「コロナ」「コロナ」と連日報じ、「コロナ」の恐ろしさを刷り込まれていく。朝昼晩とこんな情報番組ばかり見せられていれば、本当に怖くなる。外出禁止令が出なくても自ら外出を禁止し、家に籠もってしまう。
先の大戦の際、新聞、ラジオが大本営発表の「連戦連勝」を敗戦の日直前まで流し続けたのとよく似ている。
こういう時代だから冷静な判断力と批判精神を持ち続けることが大切だと思うが。
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