ブレーキとアクセルの踏み間違いについて再度考える(3)
〜技術の進歩が初歩的なミスを生む


 今回、マツダはよくある中・上級車だけへの導入ではなく、コンパクトカーのデミオを含む全車に上記構造を導入したわけで、その点は大いに評価すると同時に、他メーカーも見習って欲しい。

技術の進歩が初歩的なミスを生む

 Simple is Bestという言葉があるが、こと技術屋にはこの言葉は当てはまらないようだ。彼らには引き算の発想はなく、あるのは足し算と掛け算。よりComplex(複雑、複合)にしていく発想だ。
 その代表が車と電話。いまや両者ともに元々の物とは姿、形も全く別物と言っていい程変わっている。それを「進化」と言うが、技術が進歩すればするほど複雑になり、ひとたびトラブルが生じれば現場ではお手上げになるばかりか、そのことがミスや事故を招くとはなんとも皮肉だ。

 だが、ミスや事故が起きる度に、それを防ぐための技術を開発しようとする。技術が起こしたミスを新たな技術で防ごうというわけで、まるでイタチごっこだ。技術でサポートするのはここまで、という線引きをしようとはしない。線引きをすれば技術の怠慢と見られるのが怖いのだ。その結果、屋上屋を重ねるように技術を積み上げていく。常にミスは初歩的な部分でしか起きないというのに。
 それに1つの答えを出したのがマツダである。ブレーキとアクセルの踏み間違いを次の技術開発で解決するより、元になっている構造を変える方がはるかに簡単、シンプルな解決策なのは恐らく他社の技術者も分かっていたはずだ。
 にもかかわらず、なぜその方向に向かわないのか。メーカーにとって技術革新PRにならないからだ。
 前輪を前に移動して足元スペースを広げ、アクセルとブレーキのペダル位置を右に少し移動することで、人間工学に基づいたドライブポジションを確保した、と言うより、自動ブレーキシステムを開発、導入したと言う方がユーザーに技術力の高さ、革新性訴えられると考えるからだ。言い換えれば自動車メーカーのエゴ、自社の車を売りたいというエゴである。

 人は楽になればなる程、本来持っていた能力を失っていく。逆に言えば、技術の進歩が人を退化させているわけで、そういうパラドックスの時代に我々は生きている。
 それが分かっていても技術者は決して技術開発をやめないだろう。ミスや事故を防ぐのは人間ではなく技術だと信じているから。
 かくして自動車メーカーは自動運転技術、究極の無人運転技術の開発に向けて突き進むだろう、自社の儲けのために。


 


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