今回は最近経験したビジネスホテルのサービスについて紹介してみたい。
いままではシティホテルの利用が多かったが、最近、毎月岡山市に行くようになってからビジネスホテルをよく利用している。宿泊するホテルは毎回替えているが、希望は安くて、いいホテルだ。しかし、これがなかなかない。
安いだけのホテルなら結構あるが、部屋やベッド、浴室が狭かったり、シャワー付き便座がなかったりする。なによりLAN接続ができないのは困る。メールのチェックだけはどこにいても毎日しているからだ。そのほかにも禁煙ルームは必要条件だし、朝食付きがいい。そして料金は6,000円前後まで。岡山行きは諸般の事情でシビアにならざるをえないのだ。でも、そのお陰でいろいろ勉強もできた。
料金その他の条件はほぼ満たせても「いいホテル」という部分がなかなか満たせない。第一、この「いい」という概念自体が個人的な価値観に左右されるだけにとても曖昧である。ある人にとっては「いい」と思われる内容でも、ほかの人にはそうでないことはいくらでもある。
例えばホテルの外観や室内は新しい方がいいに決まっているが、それを「いい」と思うかどうかには個人差がある。それよりは新聞の差し入れとか枕の数の方を重視する人もいるだろうし、浴室に髪の毛が1本残っていると非常に不快に感じる人もいるだろう。
こう見てくると、「いい」というのはどうやら感じ方のようだ。言葉を換えれば「サービス」に関連していることのようだ。
今回、私が岡山市で宿泊先に選んだのは「ベネフィットホテルほんまち」という岡山駅から歩いて10分足らずの距離にあるホテルだった。ホテル側に出した条件は「禁煙ルーム」と「LAN設備」だった。室内の広さは事前情報では分からなかったが、ベッドがダブルサイズというのも気に入った理由の一つだった。枕が変わると寝られないとか、自宅のベッド以外ではなかなか寝付けないということはなく、どちらかといえば環境適応型で、どこでも、どんな環境でも大体すぐ寝付くタイプだが、それでも窮屈なベッドで眠るよりゆったりとしたベッドで眠りたいし、できれば掛け布団は羽毛布団の方がいいと思っている。
ホテルのハード面は最初から期待してなかったが、この期待は裏切られることはなかった。そして狭すぎるフロントでチェックインを済ませた瞬間、今回はハズレだなと感じた。
ところが、この予想は見事に裏切られたばかりか、同ホテルの細やかな心遣いに感心したのだった。
部屋に入ると最初に目に飛び込んできたのはベッドの上に置かれたタオルだった。
普通、ベッドの上に置かれているのはパジャマと決まっている。ところがここではパジャマのほかに普通サイズのタオルが2枚置かれていたのだ。「朝用」「夜用」と書かれた紙とともに。
バスタオルは浴室に置かれていたから、同じように浴室に2枚のタオルを置いていてもいいが、それでは客は2枚あるということに気付かないかもしれない。だからわざわざベッドの上に2枚揃えて置き、しかも、2枚置いている理由をさりげなく「夜用」「朝用」と書いて知らせているわけで、こういう演出がとても重要である。
サービスの押しつけは困るが、サービスをサービスと分かってもらわなければ意味もない。その辺をいかにさりげなく行うかということがソフトなのだ。こうした細やかな心遣いは特に女性客の胸を打つはずである。
そして机の上にはお茶のほかにコーヒー、お風呂の入浴剤、ドライヤーが置かれていた。
ドライヤーを置いているビジネスホテルは意外に少ないのではないだろうか。少しハイランクなビジネスホテルでは置いているところもあるが、その場合でも浴室に備え付けである。それをわざわざテーブルの上に置いているところなども恐らく女性客を意識したことと思われる。
さらに目を引いたのが冷蔵庫だ。
冷蔵庫の扉に「朝の目覚め用にご用意しています どうぞお飲み下さい」と大書した紙が貼ったので、扉を開けて中を見ると、そこにはドリンクが2本だけ入っていた。
これには同ホテルの立地場所が少し関係しているのではないかと思う。いわゆる歓楽街に近いのだ。「このドリンクを飲んで、飲み疲れた体に元気を回復してください」。そんな思いが込められているように感じた。
もちろん私もありがたく頂いた。ただ翌朝ではなく、飲んで帰ったその夜にだったが。
極め付けは机の引き出しの中で、そこには電話帳が2冊、タウンページとハローページが入っていた。これには特に感心した。
しかも料金は朝食込みで6,400円。
ハード面での不足を補ってあまりあるソフト面の充実である。
こうした驚きは翌朝まで続いた。
最近のビジネスホテルは朝食バイキングを導入しているところが多いが、同ホテルは見るからに宿泊特化型に近く、レストランを内部に併設するスペースはないように見受けられた。実際それらしい箇所は翌朝まで確認できなかった。ホテルの建物の外に突き出た小さなスペースがあり、そこでテイクアウトのコーヒーとサンドイッチを売っているような場所はあったが、まさかそこが「レストラン」とは思いもしなかったが、朝食はそこで食べるのだ。食べるといってもそのスペースは人1人しか入れない半畳ほどの広さだから、その中で食べるのではない。外で食べるのである。
そういえばチェックイン時に「朝食はお部屋にお持ちになってゆっくり食べていただいても、1階で食べていただいてもいいです」みたいな説明を受け、思わず「1階ってどこ?」と聞き返した記憶がある。エントランス部分にテーブルとイスが配置されてあったが、まさかそこが「レストラン」とは思いもしなかったからだ。
まあ、いってみればファーストフード店で朝食を摂るようなイメージである。それを「朝食はお部屋にお持ちになってゆっくりお召し上がり下さい」という言い方に変えることで、きちんとしたレストランがないというマイナスを、部屋でくつろいで食事ができるというプラスに変えているのだ。
ファーストフード的朝食とは書いたが、具だくさんのシチューとサンドイッチにコーヒーは十分の量だし、味もよかった。
一体誰がマネジメント指導をしているのだろう。
そんな興味を抱かせたビジネスホテルだった。
人はともすればハードに頼りがちだが、重要なのはソフトであり、それはちょっとした工夫や発想の転換(顧客志向の考え方)で、デメリットをメリットに変え、客に幸せを届け、自らを輝かせることができる実例をここで見たような気がする。
|