富士通 LIFEBOOK GH

 


権力は簒奪すべし
〜 IDC大塚家具の「内紛」で考えること。(2)


必要なのは権力簒奪の気概

 対して2代目(3代目)の方はといえば、権力の禅譲しか頭にないから、先代を批判することなど思いもよらず、他のイエスマンと大差はない。それに加えて摩擦回避世代が増えているから余計だ。
 ただ、彼らは押し並べて先代より高学歴(高学力ではない)で、流行りの近代経営論を勉強し、ITの利用に長けている。そのため議論をすればワンマン経営者といえども負けてしまう。
 力の差が歴然としている間は、それを成長と微笑ましく見守る余裕があるが、多少なりとも力を付けてくると微笑ましさが苦々しさに変わり、打倒の対象へと変わっていく。
 息子(娘)が利口かつ力があれば親の庇護下を離れ別の道を歩むのだろうが、そこまでの力も意欲もなければ様々な理由を付けて自らを納得させ親の庇護下に身を置く。

 3代目が会社を潰す、というのはいまでも当てはまる真理(?)だ。先代が敷いた線路の上をただ無難に走るだけの後継者に変化に対応する能力がないのは自明の理である。いくらITを駆使しても変化を察知することも、それに対応することもできない。
 常に変化は現場で起きている−−。成功した創業者がその後判断を誤るのは現場を見なくなる(体力の衰え等もあり、現場を回れなくなる)からで、市場環境の変化に気づかなくなるからだ。そうなると老害以外の何物でもない。権力だけを振り回す若き後継者はさらに質が悪いが。

 権力(経営権)は与えられるものではなく、簒奪(さんだつ)するものである。そうした気概がない後継者が多すぎる中で、権力の簒奪を図る久美子氏の気概は見上げたものである。
 家具業界を取り巻く市場環境が変化しているのは誰の目にも明らかだ。その変化に対応していくのか、それとも従来の特徴(会員制、コンサルティングセールスによるまとめ売り)を守り続けるのか。
 これはどちらが正しいということではない。いずれの方法もある。ただ、それぞれに適した手法を取らなければ失敗するというだけだ。

 客観的に見れば新規住宅着工件数は縮小しているから、大塚家具が得意としてきた従来の手法では拡大は望めないだろう。しかし、勝久氏が言うように高級家具を購入する層は一定数存在するのは事実だ。その層をどれぐらいと見るかで今後も多店舗展開が可能かどうかも決まる。場合によっては店舗の閉鎖も必要だろう。市場規模に合ったスリムな体質にし、セグメントした顧客層を対象にしていけばブランドイメージも守られるだろう。ただし、従来のような売上高は望めず、利益率重視の経営になるだろうが。
 この場合の問題は拡大路線を走ってきた創業者に、それ(量から質への変化)ができるかどうかだ。過去の歴史を見ると、その転換ができたカリスマ経営者はいないのが気になるが。

 久美子氏の路線もイケアやニトリのようなカジュアル路線を歩むということではなく、高級家具路線を維持しながら、会員制を廃し、単品買いの客でも気軽に入れるような店作りにしたいということのようで、従来取りこぼしていた層を取り込もうとする戦略のように見える。ただ、この転換はよほどはっきり見えるような形の店作りにしなければ従来の顧客、新規顧客の両方から支持を得られず失敗する可能性が高い。
 とはいえ時代のニーズには久美子氏の路線の方が合っているだろう。なにより、見かけばかりの2代目、3代目が多い中で、親から権力を簒奪する気概を持った久美子氏が権力を掌握し、存分に振る舞う姿を見てみたいとは個人的に思うが。

 


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