ホモ・サピエンスは滅亡に向かっているのか〜環境編(3)
40年間で同時多発熱波が6倍に


40年間で同時多発熱波が6倍に

 レンズをマクロから徐々に引きながら観てきたが、さらに広角側に引き北半球全体を観てみよう。すると植生物の行動も森林火災も高温気象に関係あることが見えてくる。

 この夏の異常な暑さは誰もが認めるところだろうが、ポルトガルやスペインでは今夏、熱波による死者が1000人を超えていると聞けば驚くだろう。しかもポルトガルやスペインだけにとどまらずヨーロッパ各国で熱波による死者が増えている。
 問題は異常高温が山森林火災だけでなく多方面に影響を及ぼしていることだ。例えばイタリア最長のポー川は例年の20%しか水位がなく、ここまで川が干上がったのは過去70年間で初めてとのことだし、スペインのアンダルシア地方南部を流れるグアダルキビール川の水量は例年の28%しかない。

 そのため一部の国や地域では給水制限をするところも出ているが、影響はそれだけにとどまらず、電力不足を招いている。
 河川の水位減少ですぐ思い浮かべるのが水力発電との関係だが、実は水力発電のタービンを回すのにも水量が影響しており、十分な水量が確保できないとこのタービンの回転が落ち、結果として水力発電の出力も下がらざるを得ない。
 万年雪を抱くピレネー山脈を水源とするガロンヌ川の水量が減少しているためガロンヌ川にある13の水力発電所は軒並み発電量を落とし、最大で30%以上も発電量が落ちた箇所もあるというから大変だ。

 しかし、フランスは世界でも有数の原発所有国で同国の電力は原発に負うところが大きい。それ故、河川の水量不足の影響はそれほどないはずと思われるかもしれないが、実は大きく関係しているのだ。
 福島原発事故の時を思い起こしてもらえば分かるが、原子炉は常に冷却しておく必要がある。日本の原発は海岸近くに建設されており、原子炉の冷却水は海水に頼っているが、諸外国の原発はほとんどが内陸部に建設されている。
 ということは原子炉の冷却は河川の水に頼っているということであり、河川の水量が減れば発電量を落とさざるを得ない。それを無視して原発の稼働を通常通りに続ければどうなるかは、福島原発事故を見てきた我々日本人は身をもって知っているはず。

 気温上昇による干ばつは欧米だけでなく中国でも深刻な問題を引き起こしている。この夏、長江流域は記録的な熱波と少雨に襲われ、長江の水位が下がり、流域の地域は深刻な水不足に陥っている。中でも深刻なのが電力供給の80%以上を水力発電に頼っている四川省で、トヨタなど同省に進出している日本企業も電力不足で一時、生産を中止したり、店舗の照明を1/3に落として営業を続けたり、一部のエアコンを中止したりせざるを得ない事態に追い込まれている。
 上海でも外灘(ワイタン)のライトアップの一時中止、高層ビル群の夜間消灯を行うなどの対策を取っているが、異常高温状態が長く続けば、さらなる対応が必要になるだろうが、中国だけでなく各国とも妙手はない。

 なんといっても相手は目に見えない自然であり、それを相手にするのはアリが象や恐竜を相手にするようなもので、相手を概念化することはできても象や恐竜を自由に操ることが出来ないのと同じように自然を自由に操作できないどころか自然の動きに人間界が翻弄されている。
 厄介なのは、この恐竜は口から火を噴くだけでなく、同時に吐水を浴びせかけることだ。この吐水を浴びた地域は70年に一度とか100年に一度という大洪水に見舞われる。当然、50年に一度の大洪水に対応できるように作られた洪水対策等は悉く役に立たない。「未曽有の」「過去に例を見ない」「史上初めて」等々いろんな言葉を並べても被害の甚大さの前にはあらゆる言葉が意味を持たず空虚である。

 それでも豪雨による大洪水が100年に一度だけで終わるならまだ何とかなるかもしれないが、その保証はないどころか、今後、今の状態が常態化する可能性の方が強い。そうなればもはや異常気象とか環境異変ではなくなり、この星に生物が生き残れるのかどうか、あるいは生存できる生物の種はどの程度あるのかという問題になる。
 生き残っている種の中にホモ・サピエンスは存在しているのかどうか。

 キリスト教保守派でなくとも「ノアの箱舟」は寓話ではなく、歴史上に実際に起きた大洪水の話だと考える人は少なからずいるのではないか。過去、この星を大洪水が襲ったのは事実なだけに。
 それとは比べ物にならないが、今世界各地で洪水の被害が多発している。それはあたかも熱波とセットになっているようにさえ見えるが、熱波も洪水も世界で同時多発的に発生していることが問題だ。
 因みに熱波の発生はこの40年間で6倍になっているが、特に近年、同時多発的に発生しているのが特徴である。
                        (4)へ続く


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