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専門性と総合力を充実させたローファーム(2)


徒弟教育で鍛えていく

 −−まるで一般企業の新入社員教育と似ていますね。
 萬年 裁判官、検察官がいいのは組織で徒弟教育をする。ところが弁護士だけは、これをしていない。人によっては任せきりの所もある。だが、ぼくは全部決済している。依頼者に出す手紙もチェックしている。こういう書き方はいかんだろうが、これはおかしいからやり直せ、と。そういう風にして、徒弟教育をして鍛えていかなきゃだめだ。
 調査してこの事件の論点はこれだと思う。この論点についてうちには10数冊本がある。それを読み、A4用紙1枚にまとめろ、と。問題点、結論、理由。理由の中に判例、通説はこうなっている。だけど私はこう考える。こういう書き方でA41枚にまとめろ、と。
 インターネットでコピーしてくるバカな奴もいるが、そういうのは読めばすぐ分かる。ぼくは文献も表紙と本文を全部コピーさせ、本文の肝心の所に丸を付けさせる。それを持ってきてぼくの決済を仰げと指導している。こうすることで調査能力が鍛えられ、実力が付いてくるんです。

 −−そういう方法で教育する所は民間企業でもほとんどありませんね。
 萬年 そうでしょう。うちには近藤敬夫先生という元福岡地裁所長で、非常に学識も高い先生が客員弁護士で居られるんですが、その近藤先生に尋ねる時でも「先生、これはどうしたらいいでしょうか」というような聞き方は絶対したらいかん。「この事件で私はこうやりたいと思うんですが、これでいいんでしょうか」という聞き方をしろ、と言っている。
 調べてから聞きに行くならいいが、ただ聞きに行くだけならすぐ忘れ、残らない。悩んで、自分で調べるから頭に残るんです。
 基本は弁護士も徒弟教育ですよ。なんの仕事でもそうだと思う。それを組織的にやるにはローファームを作るしかないんですよ。

検察審査会の議決に問題は?

 −−最後に検察審査会の今の動きについて。民主党の小沢一郎氏が検察審査会によって強制起訴されましたが、その際、検察の起訴内容に含まれていなかったものが審査会の起訴議決に含まれていました。2004年の検察審査会法の改正は一連の司法改革、市民感覚を司法の場にも取り入れるということと大きく関係していると思われますが、今回の検察審査会の動きには疑問を感じています。検察審査会がこういうことをし出すと法のルールの下に行われるのではなく、人民裁判的な方向が今後強まりはしないかという危険性を感じていますが、専門家としてどう見られていますか。
 萬年 同感。検察審査会というのは検察の独走をチェックするためにアメリカの起訴陪審制度を導入したんです。ところが特捜が公判を維持できないと判断したのに何ができますか。付審判で有罪になったものはあまりない。それだけ立証は難しい。典型的なのは甲山事件。あれは検察審査会の議決に基づいてやったが、結果は無罪。
 検察審査会というのが必ずしも民主主義的な要素で権力統制するのではなく、逆に人民を苦しめているという事例もあるわけですよ。
 今後、検察審査会をどういうふうにやっていくかということがある。司法改革が変に歪んだ哲学の下に、アメリカの起訴陪審を模倣して権力をコントロールしようとしたが、逆に人民を抑圧している面がある。
 マスコミもおかしいと思うね、小沢一郎の問題については。なんで小沢がそこまでやられねばならないのか、ということを言っているのは一部のマスコミだけで、大半のマスコミは第2の田中角栄だと騒いでいる。しかし、まともなジャーナリストは、小沢も悪いけどそこまで攻められる問題ではなかろう、と言っているよ。
 検察審査会が独自に付け加えた罪状の件は今後の裁判で論点になるだろうね。

[余録]
 弁護士1人2人の法律事務所が多い中で、萬年総合法律事務所(萬年浩雄所長 福岡市中央区赤坂1丁目15-33 ダイアビル福岡赤坂、tel 092-751-5006)は現在、弁護士14人、秘書11人を抱える大所帯である。昨秋、事務所名の変更挨拶状が送られてきたが、そこに一般には耳慣れないパートナー弁護士という文字があった。アメリカ映画などに出てくる弁護士はよくパートナーという言葉を使っていたので興味を持ち、早速取材に出かけた。
 興味と言えば他にもあった。萬年事務所にはいままで何度もお邪魔しているが、いつも広い打ち合わせ室のような所で会うだけで、一度も萬年弁護士の執務室を見たことがない。そこでインタービュー終了後、部屋を見せてもらうことにした。
 ボスの部屋は立派。映画やTVではそう相場が決まっている。萬年ボスの部屋もさぞ立派に違いない。ところが、この期待は見事に裏切られた。「弁護士は皆平等。ぼくは個室は作らない主義」という言葉通りに他の弁護士達と同じ大部屋。以前、宮崎のホンダロックで見た役員室を思い出した。さすがに企業再生を手がけてきただけのことはある、と妙に納得。
 一般企業も見習うべきだと感じたのは萬年弁護士の教育方法。手紙の書き方、言葉遣い、報告書のまとめ方。そういうことからきちんと指導、教育して鍛えていくから組織が強くなる、と改めて実感した。



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