AEON de WINE

 


うまくいかない会社や組織には何が不足しているのか。


 自分の会社やチームを強くしたい。あるいは強い会社や強いチームを作りたい。そう考え様々なセミナーに参加したり、他社の成功談を勉強して、自社に持ち帰り導入してみるものの、どうも思うように行かない−−。
 こうした経験を持つリーダーは多いのではないだろうか。なぜ、うまくいかないのか。どこが違うのか。
 たしかにA社とB社は同じではない。企業の成り立ち、業種、社員数、企業文化が違う。それに、大企業の成功例を中小企業に移植してもうまくいかないというのは皆ある程度感じてきたことだろう。それなら同規模、同業種なら同じ結果が期待できるはずと思うが、どうもそういう風にもいかない。

 一体なにが違うのか。どこをどうすればいいのか・・・と悩み、もがき、それでもまだ前向きなリーダーはあちこちの勉強会に顔を出したり、セミナーに参加することだろう。
 そうした姿勢は悪いことではないが、闇雲にいろんなことにチャレンジしても効果は薄い。ツボを押さえる、公式を見出し、それを適用することが重要だろう。

 「それはその通りだと思うが、知りたいのは抽象的な一般論ではなく、具体論なんだ」
 ここまで読みながら、そう考えている読者もいるだろう。いや、その気持ちはよく分かる。よく分かるから、ツボの部分をお教えしたい。これからそれに答えていきたい。
 といっても、答えるのは私ではなく『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』(日本実業出版社)で、著者は株式会社モチベーションジャパン代表取締役社長、松岡保昌氏。

 前号でも触れたように松岡氏は私の友人で、社名からもある程度推測できるように企業の場合は「ビジョナリーモチベーション」を、個人は「セルフモチベーション」を、どうデザインしていくのか、を中心に据えて、組織人事コンサルタント、キャリアカウンセリング等を行っている。

 えっ、抽象的でイメージを持ちにくい? では少し個人的な話から。
 私が彼と出会ったのはもう30年近く前になると思う。彼がリクルート九州支社に在籍していた頃で、その頃、私はリクルートの学生向け冊子「就職情報(リクルートブック)」の巻頭に業界動向や経済の動きなどの記事を書き、その関係で企業取材も行っていた。
 話はちょっと横道にそれるが「就職情報」、懐かしいと感じる人も多いのではないだろうか。分厚い冊子が学生の所に無料で送られてきたと思うが、私自身は学生時代にその存在も知らず、同期の連中はこういう冊子で情報を得、履歴書を送っていたのかと40代で初めて知ったものだ。それとも私の学生時代にはなかったのだろうか。

 その後、松岡氏は東京に転勤した後、執行役員人事総務部長としてファーストリテイリングで人事戦略を、さらにソフトバンクに移りブランド戦略室長、福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役等を経て独立し、株式会社モチベーションジャパンを設立というのが大まかな経歴である。

 いやあ、こうして書いているとスゴイ経歴の持ち主で「キレモノ」というイメージ像を結びそうだが、本人の風貌から受ける印象はおよそ正反対。とても柳井正氏や孫正義氏の下で修羅場をくぐってきたとは思えない、飄々というか、穏やかで温かみのある顔をしている。そう、老舗の跡継ぎ坊ちゃん、をイメージしてもらった方がいいだろう。話し方も穏やかだし、俗に言うコンサルタントや、ちょっと冷たい人事畑の人間などというイメージはまったくしない。
 その彼が唱えるモチベーションだから、組織の冷徹な論理というより、底流に愛を感じるというのは言い過ぎだろうか。

 さて、冒頭の疑問である。
「なぜ他社の成功事例を取り入れてもうまくいかないのか」
 第1章で上記項目を立て、次のように述べている。
「成功事例を取り入れれば、同じ効果が得られると考えている」のは間違いで、「自社の”ビジネスモデル”や、自社の強みである”コア・コンピタンス”を理解し、十分に検討したうえで、その成功事例である組織戦略の”仕組み”や”制度”それにともなう”施策”を取り入れないと、成功どころか、逆に失敗してしまうケースすらある」と警告する。

 組織人事の施策は「会社の理念」が実現され、「会社のコア・コンピタンス」が実現されるような施策でないとダメで、これらを常に見直し、進化させていかなければならないが、「会社のコア・コンピタンス」は人によって認識が違ってはならない。経営者の考えと幹部や社員が別の捉え方をしていては組織として機能しない。常に共有する必要がある、と論じる。
 これらを実施する上で重要になるのが、「人の気持ちを考え抜いて行う」ことであり、「うまくいかない時は、その意図通りに人が動いてくれない本当の理由を突き止めて、それが解消されるような施策を考え続けなければならない」。
 重要なのは「人の気持ちを変えること」で、そこをどう考えるのか。本書のタイトルに「人間心理を徹底的に考え抜いた」とあるのは、人の心理面、モチベーションをどう上げるのかについて様々な事例を載せながら説いているからである。

 本書は項目立てが細かくされており、どこから読んでも理解しやすいようになっている。特に最終章別立てで、「組織変革のための人間心理を徹底的に考え抜く”源泉”となるもの」が敢えて「特別付録」として収録されているが、ここがキモ。経営者、管理職や人事、人と組織にかかわる人が知っておくと役立つ心理学も収録されているので大いに参考になるだろう。
 本書は約360ページとページ数があるわりには1,870円(税込み)と価格は手ごろだ。アマゾンでも高評価を得ているようだ。福岡では丸善が店頭取り扱いしているようなので一応お知らせ。


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