既存秩序を一気に破壊するようなビックバンが起きると、エネルギーは2つの方向に向かう。1つは外へ向かい、もう1つは内に向かうベクトルとなって現れる。
この現象が顕著に現れるのが大災害時だろう。阪神・淡路大震災、東北大震災を例に挙げるまでもなく、ここ数年、世界各地で大災害が起きているが、その際、内側に向けた大きなベクトルが働く現象がよく見られる。その代表が被災地に駆け付けるボランティアだ。
「00000JAPAN」でWi-Fiを無料開放
大災害時に支援活動をするのはボランティアだけではない。様々な企業が様々な形で支援の手を差し伸べている。被災直後、最初に望むのはライフラインの復活だろう。水、電気、ガスがまず挙げられるが、今では通信もライフラインの中に加えてもいいだろう。
いまや通信は安否確認・連絡に欠かせないものになっているが、問題はデータ通信の容量である。自宅のWi-Fiに接続すれば通信各社と契約している容量は減らないが、外で携帯端末を使う場合は残容量を気にしなえればならない。
TVも見られない、ネットにも接続できなければ「情報難民」になり、被災者の孤立感が深まっていく。せめて安否確認や状況連絡だけでもできれば、と考えるのは誰しも同じだろう。
そこでドコモなどのキャリア各社が自社のWi-Fiスポットを「ファイブゼロジャパン」という統一名称で無料開放している。携帯端末のWi-Fi接続を「オン」にしておけば無料で接続できる。自動接続できない場合はWi-Fi画面から「00000JAPAN」を選んで接続するだけでいい。無料で利用できるから大いに助かる。
このような無料公衆LANはいままでも(現在でも)インバウンド(海外からの旅行者)向けや、観光地で部分的に開放されていた。それを被災地域に広く開放したものと考えればいい。
「ファイブゼロジャパン(00000JAPAN)」が携帯各社のWi-Fiスポットと違うのは、例えばドコモやauと契約していなくても各社のWi-Fiスポットに無料で接続できるという点だ。
従来は自社の契約者だけが接続できていたWi-Fiスポットを災害エリアに限り限定的に無料で誰もが接続できるようにしたわけで、通信各社によるボランティアと言ってもいいだろう。
デジタル紙面を災害時に無料開放
被災直後の混乱が少し落ち着くと災害情報を知りたくなるが、電気が通じてなければTVも見られない。当然、新聞配達もない。そういう状況下でも手書きの壁新聞を発行し続けた石巻日日新聞の活躍に感謝、感動した人は多いはず。情報がいかに人々の不安感を取り去ることができるかということだ。
これを機に災害時の方針を変えた新聞社も現れた。毎日新聞社がそれで、同社は、この時以降、被災エリアをカバーする本社紙面を無料で開放している。例えば熊本地震直後は九州全域をカバーする毎日新聞西部本社版を無料で、西日本豪雨災害の時は大阪本社版、西部本社版を、北海道地震の時は北海道版を無料で開放している。
といっても紙の紙面ではなく、デジタル紙面である。現在、各新聞社とも新聞は紙面だけでなくデジタル紙面でも見られるようにしている。紙面構成は新聞紙面とまったく同じで、ページを開くように1面、2面、3面と紙面をめくって読んでいくが、紙面を閲覧するためには月4000円前後の購読料金を契約しなければならない。
大災害が発生する度に毎日新聞社はデジタル紙面を無料閲覧できるように開放しているのだ。デジタル紙面ということはインターネットに接続さえできれば誰でも紙面を読めるわけで、被災地以外の人、例えば北海道地震時は九州にいる人でも毎日新聞北海道版の紙面をデジタルで読むことができる。
それだけではなく、北海道地震、大阪の台風被害などが相次いだため、一時期、北海道から九州まで全紙が無料購読可能になっていた。
こうした動きは他社も真似て欲しいと思うが、私が確認できたのは全国紙では毎日新聞だけだった。地方紙では山陽新聞社が西日本豪雨で倉敷市真備町が被災した時、同じようにデジタル版を無料開放している。
大災害時には企業や人間の様々な面が現れる。それはプラス面だけでなくマイナス面も一杯出てくるだろうが、協力し、助け合うようなベクトルがもっと広がっていくことを期待したい。
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