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悪くなる日本人のマナー〜希少植物さえ平気で持ち帰る


 薄紅色の花が枝一杯に咲き、周囲に自らの存在を、控えめに、だが誇らしげに示している木が2本ある。1本は裏手に、もう1本は表通り側に。まだ色が少ないこの時期だけに薄紅色の花はよく目立つ。
 だが表通りに面した木は枝が張り出し通行人の邪魔になってはいけないと、横に張り出しそうになると枝を切られ、上に伸びかけると電線に触れたり伸びた枝が落ちて通行人に当たっても困ると切られるから多少窮屈そうな姿になっている。
 対して裏手の木は遠慮するものがないうえに南向きで日当たりもいいものだから、同時に植えられたにもかかわらず枝振りはまるで違い、周囲に存在感を誇示している。

 今が見頃よ、と招く花に誘われ、裏手の花を下から見上げ、スマートフォンで撮っていた。その建物は表と裏では高さが違い、裏から眺めると見上げる格好になる。撮影には水平より下から見上げ、青空をバックにするアングルの方がいいので、何枚か角度を変えながら撮っていたが、白衣を着た人物が上でカメラを構えている姿が目に入ったので声を掛けた。
「陽光桜ですよね?」
「いや、河津桜です」
 河津桜も陽光桜も早咲き桜だが、河津桜の方がわずか先に咲く。福岡では3月初めには咲いていたので、いくらなんでも下旬に河津桜はないだろうから、てっきり陽光桜に違いないと思ったが、河津桜と言われて少し驚いた。
 白衣の人物は診療所の院長だった。誰かから、院長は山野草を撮るのが趣味で、高い山にもよく登っていると聞いていたので、今は何が咲いているかと尋ね、上と下で会話が始まった。
「失礼ですがお名前は・・・。お会いしていると思うんですが」
「中島です。私はお会いしたことはありませんが、お袋がよくお世話になっていました」
「あっ、分かりました。そこの中島先生の・・・」
 親父が亡くなったのは20年も前だが、地元の高校で数学の教師をしていたから院長も覚えていたのだろう。
「ちょっと入ってこられませんか」
 と診療所に招き入れられた。

 写真は学生の頃、写真クラブに入り撮っていたそうだが、再びカメラを手にしだしたのは10数年前。患者から「先生、何か趣味を持った方がいいよ」と言われて再び始めたとのこと。
 撮るのはもっぱら山野草。珍しい山野草があると聞けばどこにでも行くが、北九州の平尾台や四国山地はよく行っているらしい。
 少々の雨でも出かけるというから、晴れた時に出かけ、雨の日は室内にいる「晴撮雨室」の私とは大違いだ。

 「セツブンソウは終わったし、カタクリの花はまだだし、今何が咲いていますかね」
「ミノコバイモ、知っていますか」
「えっ、ミノコバイモ。いや見たことありませんね」
「そうですか。2〜3cmの小さな花で、俯いて咲いていますよ」
 そう言いながら、メモ用紙に地図を書き始めた。
「絶滅危惧種に指定されていますが、この辺りだとここに自生しています」

 近年、日本人のマナーは悪くなる一方で、希少植物、絶滅危惧種に指定されている植物でも平気で掘り起こして持って帰る人が結構いる。
「特におばさんが酷いですね」と院長。
「注意したら『いいじゃないの。家で増やして返すから』と言うんですからね」と苦笑い。
 そういえばカタクリの花を掘って持ち帰る人は多い。カタクリやセツブンソウなどの小さな植物は下草を刈ったり落ち葉を拾ったりと、育つ環境を整えてやらないと絶滅していく。もちろん土壌汚染などは論外で、水など自然環境がきれいな場所でしか育たないのだ。逆に言えば、それらの植物が生えている所は環境がきれいということでもある。
 現在、希少植物が生育している場所はほとんど人の手が入っている。人が守り育ているわけだ。それを勝手に掘り起こし、持ち帰る人がいるとはなんとも嘆かわしい。そうした行為を防ぐために、囲いを作り、期間中は人が常駐し、環境保全協力金を取るしかないが、それらは地域の人にボランティアに頼っているというのが実情だ。

「こちらが見ているのに平気でガッガツと掘り起こして持って帰る人が多いですよ。持って帰っても根付かないですよと言うんですけどね」
 カタクリの自生地で耳にした話だ。
 こうしたマナー違反者は撮影目的の本格的なカメラマン(ウーマン)にはいないと思いたいが、デジカメの普及以後、撮影人口が急増した結果、撮影者のマナーも悪くなっているのが実状。
 だから希少植物や絶滅危惧種の自生地はオープンにしないのが決まりのようになっている。それなのに私に教えてくれたということはマナーを守る人間と認めてもらったということだろう。

 ミノコバイモ、漢字で書けば美濃小貝母。美濃という字に象徴されるように愛知県、岐阜県、三重県に多く自生しているコバイモの種類で絶滅危惧U類に指定されている。岡山県で見つかるのは珍しい。
 翌日、早速教えられた場所に行くと、小さな花が10本程咲いていた。時期が少しずれていれば対面できなかっただろう。院長に感謝。お陰で珍しい植物の写真を取ることができた。
 なにより地図が正確で、迷うことなくその場所に行けたのは方向音痴の私にしては珍しかった。


 ミノコバイモの写真は「栗野的風景」にアップしているので、そちらを御覧下さい。
 栗野的風景 http://blog.livedoor.jp/kurino30/


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