マイ箸を作る理由を前々回の「栗野的視点No.118:なぜ、リエゾン九州でマイ箸を作るのか(1)」で2つ挙げた。
1つは地球温暖化防止のためだが、「地球温暖化防止のためにマイ箸を持ち歩こう」と言っても、実際に持ち歩く人は少ないかもしれない。ところが、カッコよくて、オシャレで、人に自慢したくなるような箸を買えば、恐らく多くの人が持ち歩くだろう。つまり地球温暖化防止のために、と声高に叫んだり、大上段に構えるのではなく、一種のファッション感覚でマイ箸を広げようというわけである。
もう一つは、これこそがリエゾン九州の活動と密接に結び付いているのだが、マイ箸を作ることで地場中小企業にマーケットのとらえ方、商品開発の視点、新規参入の仕方などを実践的に学んでもらうためである。
成熟市場への参入
例えば箸市場を考えてみよう。
この市場は新規市場でも拡大市場でもなく、成熟市場、飽和市場である。
日本食市場が縮小していることを考えれば、将来的にも市場が拡大することは望めないどころか縮小市場といった方がいいだろう。
普通、このような市場への新規参入はありえない。
いわんや異業種が参入するような市場でない。
そんなことは誰でも分かることであり、そこに敢えて参入しようというのだから冷ややかな目で見られても仕方ない。
しかし、人が無謀と思うところにこそ道はあるものだし、戦い方によっては勝算はある。
戦う前に諦めるのではなく、どう戦えばいいのかを知ることこそが重要ではないか。
2通りのマーケットの攻め方
一般的に市場(マーケット)の攻め方は2通りある。
1つは競合相手がいない空き地(郊外型といってもいい)マーケットを狙う方法だ。
競合相手がいない分、戦いは楽だし、他社が参入してくるまでそのマーケットをほぼ独占できるという利点がある。
その代わり市場開拓に時間がかかるのが欠点だ。
従来、市場がなかったところに市場を作り出すわけだから、すでにある市場でモノを作って売るのとは違い、商品を認知されるまでにかなりの時間とエネルギー、資金がかかる。
もう1つは成熟市場(都市型市場といってもいい)への参入である。
こちらはすでに出来上がった市場なので商品はほぼ認知されているから、一から懇切丁寧に説明しなくても済む。
ただ、その分参入しやすいので競合相手も多いし、商品の競合も多い。
そのため他社との差別化を図らなければ商品は思うように売れないし、生き残っていくのは大変だ。
差別化は価格で図るのか、機能なのか、高付加価値なのか。
いずれにしろコンセプトを明確にし、ターゲットを絞り込む必要があるだろう。
信長の戦術に見る市場攻略の仕方
ここでちょっと角度を変えて、市場攻略という観点から織田信長の戦い方を見てみたい。
信長はなぜ桶狭間の合戦で圧倒的多勢の今川方に勝てたのか。
織田側2,000の兵力に対し、今川義元勢は45,000である。
通常、圧倒的多勢に対して取る戦術は籠城戦である。
しかし、信長は逆に攻勢に出ることで今川方の意表を突いたばかりか、雨中に奇襲をかけるという作戦で勝利したのである。
勝利の要因は次の3点だ。
1.圧倒的多数で戦闘を有利に進めていた今川方の油断
2.昼食後に人馬が休息していた時間に奇襲をかけた
3.激しい雨の中を襲った
「敵の油断」「奇襲」「悪天候」のどれが欠けても織田方の勝利はなかったに違いない。
奇襲が成功するとりわけ重要な要素は「時間」である。
それをうまくつかんだから、信長は数の上で圧倒的に有利な今川勢に勝てたのだ。
現代風に言い換えれば、今川勢は成熟市場だろう。
そこへベンチャー企業の信長が戦いを挑んだという構図である。
普通に考えれば勝ち目はない戦いである。
しかし、一見入り込む隙がないように見える成熟市場も切り口を変えたり
(籠城ではなく奇襲作戦)、ポイントを絞れば(昼食休憩中)攻略することができるということだ。
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