栗野的視点(No.750) 2021年9月30日
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コロナ禍の今、弱者切り捨て値上げを行う新聞社、郵政グループ(1)
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値上げの季節、ではないが、今年に入って値上げが相次いでいる。コロナ禍とデジタル化の影に隠れてこっそりと、密かに、そして容赦ない値上げが行われている。原材料費の高騰が原因の値上げというのは理解できるが、このところ多いのは密かに、こっそりと、一部の人にしか知らせないような形で行われている値上げだ。
定期購読料を値上げする新聞各紙
株主優待内容の改悪や廃止は一時の株主優待ブームの逆ブームのように行われている。またカード会員向けの割り引きを改悪したり取りやめた企業もある。いずれも業績の悪化が背景にあるわけで、コロナ禍の影響といえる面もあるが、そうとばかりは言えない面もある。
例えば今春以降、新聞各社が軒並み購読料の値上げに踏み切っている。ブロック紙の西日本新聞は25年ぶり、朝日、毎日新聞に至っては27年ぶりの購読料値上げというから、今まで値上げせずよく頑張ったとも言える。因みに読売新聞は朝日・毎日より1年半早い2019年1月に値上げしている。
だが、なぜこの時期の値上げなのか。その理由を次のように説明している。
「この間、新聞輸送や配達に使うガソリン代や新聞の原材料費の上昇、情報技術の進展に伴う紙面編集・製作の機材の導入、システム構築、更新に要する設備投資など、経営の根幹にかかわる費用が増大しています」(西日本新聞社)
「隠れた事実を掘り起こす調査報道に力を入れるとともに・・・紙面の拡充にも取り組んでまいりました。質の高い新聞づくりのためにシステムへの投資も続けています。
購読料を据え置きつつ、良質な紙面を変わらずお届けできるよう、新聞製作の合理化、人件費や経費の節減を進めてきました。しかし、インターネットの普及で新聞事業を取り巻く環境が厳しさを増し、販売・広告収入が減る一方、新聞製作コストは高くなっています。深刻な人手不足などで戸別配達を維持することも難しくなってきました」(朝日新聞社)
西日本新聞社の値上げ理由は言い訳みたいなものにしか聞こえないのに対し、朝日新聞社の方は率直に現状を説明している。
発行部数を支える「押し紙」
そう、購読料を値上げせざるを得ない本当の理由は
1.販売・広告収入の減少である。
販売収入減とは定期購読者数の減少。戸別配達で新聞を定期購読してくれる客が減ったということであり、この現象はここ1、2年ではなく、すでに10数年前から顕著になっている。読者数の減少は広告収入の減少にほぼイコールで繋がるため、新聞社にとっては販売収入減・広告収入減のダブルパンチになる。
販売数量と広告収入の減少はどちらがよりダメージかと言えば後者の方である。販売数量が減っても広告収入が変わらなければ、経営的にはさほど問題にならないというのは言い過ぎかも知れないが、言うならまあ許容範囲内。
ところが広告効果は読者数に比例すると考えられるから、広告主は読者数を気にして、読者数が多い媒体の方に広告を出そうとする。あるいは広告料を増やそうとする。
そうなると新聞社にとっては販売数量(公称部数)を減らすわけにはいかない。これは出版本でも同じだが、発行部数には公称部数と実部数の2つがある。
後者は文字通り実際に売れた部数だが、前者には水増し部数が含まれている。出版本の場合は出荷部数、新聞は印刷部数が前者に相当する。出版本は数か月後に、昔は3か月だったが今はもっと早くなっているようだ、書店の店頭から日販、東販といった卸に戻される。これを返本と言うが、返本数を引かなければ実際の販売数は出てこないが、そこは発行部数には含まれない。
新聞の場合は戸別配達の部数+駅やコンビニ等の店頭売りを合計したものが販売実数になるが、各社ともそこは発表しない。
では、新聞の発行部数(公称)にはその他の何が含まれるのか。ここに巧妙な仕掛けがある。コンビニと似たような、あるいはコンビニの方が新聞社のやり方を参考にしたのかもしれないが、販売店への「押し紙」が部数の中に含まれているのだ。「押し紙」とは耳慣れない言葉かもしれないが、販売店へ押し付ける部数のことだ。
販売店は新聞社から新聞紙を仕入れて販売しているわけで、戸別配達数は事前に分かっているから、その部数+10部も仕入れれば十分なはずだが、新聞社はその程度のプラス部数では許さず、余分に押し付けてくる。コンビニの本部と加盟店の関係に実によく似ているが、それで儲かるのは新聞社で販売店の方は余分な部数を買わされているわけだ。
(2)に続く
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