栗野的視点(No.715) 2020年11月27日
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ニコンが消える日〜海外2000人削減でも生き残れない
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カメラ市場の縮小、映像事業の売り上げ半減、前年の黒字から一転して大赤字を受け、株価が半額になるなど、ニコンが3重苦、4重苦で喘いでいる。「21年度に黒字化を目指す」と言うが、ニコンを取り巻く環境は厳しい。果たして達成できるのか。ニコンは生き残れるのか。ニコンの名は残るのかーー。
突然発表された海外2000人削減
ちょうど1か月前の10月29日号(No.711)で「ニコンは大丈夫か−−。(HP収録時に「ニコンのXデーは近いのか−−。」と改題)と題して配信したが、11月5日のニコン決算説明会で馬立稔和社長が2022年3月までに海外で2000人余りの従業員を削減すると発表した。
それにしても私の懸念がこんなに早く当たろうとは思いもしなかったが、前年の黒字から一転しての赤字であり、その額315億円(20年4〜9月期の連結最終損益)はあまりにも大きすぎる。海外で2000人の人員整理、カメラ生産はタイ工場へ集約し、国内生産廃止を含む構造改革を進めることなどで「21年度の黒字化を目指す」と言う。だが、同社を取り巻く環境を見れば少し楽観的すぎるのではと思える。
もし、21年度黒字化ができなければ、ニコンが消える日、ニコンのXデーが現実味を帯びてくるだろう。
半減したカメラ部門の売り上げ
それにしてもなぜニコンの業績はここまで悪化したのか。そこで、まず同社の事業内容を見てみよう。
ニコンと言えば多くの人がカメラメーカーと思っているだろう。もちろんそうではあるが映像事業の他にもいくつかの事業分野、半導体露光装置や液晶パネルを製造する露光装置の開発・製造を行う精機事業に、医療関係のヘルスケア事業、さらに産業機械その他がある。
このように大きく4事業に分かれるが、中心事業はカメラ等の映像事業なのは間違いない。長年、同事業が同社の稼ぎ頭であり、ニコンと言えばカメラというイメージが行き渡っていた。だが、実態は少しずつ変化しており、2020年3月期の売上収益構成比で見ると精機事業が40.6%を占めトップ。続いて映像事業の38.2%、産業機器その他10.7%、ヘルスケア事業10.5%となっている。
この数字だけを見れば脱カメラが進み、精機事業が柱になりつつあるというように思えるが、そうではない。精機事業の売り上げが伸びてきたというより、映像事業の売り上げが大きくダウンしてきたからで、まだまだ精機事業が同社の柱という程までには育っていない。
例えば映像事業の売り上げは2016年に5,204億8700万円だったが、その後年々下降線をたどり2020年3月には2,258億9400万円と半分以下にまで落ち込んでいる。
なぜ、ここまで売り上げが落ち込んだのか。原因として考えられるのは同社を取り巻く環境の変化が挙げられる。
まず写真機能付き携帯電話と、その後のスマートフォンの登場でコンパクトデジカメ(コンデジ)の市場が携帯電話、スマートフォンに奪われ、コンデジが売れなくなったこと。
その結果、コンデジから撤退するメーカーが相次いだが、ニコンはなかなか撤退しなかった。低価格コンデジには見切りをつけたが、高価格帯にシフトすることで逆にシェア、売り上げを維持しようと考えたのだ。
この事自体は戦略ミスとは言えないかもしれない。同業他社も押しなべて同じような戦略を取り、各社とも高価格帯コンデジにシフトしていた。
(2)に続く
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