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早期発見はメリットばかりではない。(1)


栗野的視点(No.751)                   2021年10月8日
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早期発見はメリットばかりではない。
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 医学の進歩で様々な病気が早期に発見されるようになった。その結果、早期治療開始にも繋がり、手遅れで助からない命も助かるようになったのは喜ばしい。しかし、早期発見・早期治療が必ずしもいい結果を生むとばかりも言えないところがある。
 例えば腫瘍。近年、腫瘍マーカーや内視鏡検査等で各種腫瘍が早期に発見されるようになった。腫瘍が発見されると、ほとんどの場合、医師から何らかの治療、手術や放射線治療を勧められることになる。そしてほとんどの人は医師の指示に従い、なんらかの治療を始めるのではないだろうか。

腫瘍の種類

 だが、ここで少し立ち止まって考えた方がいい。腫瘍とひと口に言っても良性から悪性まであるし、がんにも局所限定から浸潤性まである。
 最も質が悪いのは浸潤がんで、これは読んで字の如く水が少しずつしみ込むように周囲の組織や臓器にがん細胞が入り込み拡大していく、がんのこと。なぜ質が悪いかというと、非浸潤がんのように細胞が固まらないので手術での切除や、放射線によるがん細胞を狙い撃つことができないからだ。
 次が転移性がんだが、これは離れた他の場所へ飛び火するように広がっていくがん。浸潤がんに比べるとがん細胞が特定できるので、転移している場所のがん細胞を手術で切除したり、放射線を照射して破壊することができる。

 以上2つのタイプが悪性腫瘍(いわゆる、がん)と言われるものだが、もう1つ良性腫瘍がある。
 良性腫瘍も読んで字の如しで、腫瘍は腫瘍だが悪さをしない腫瘍。発育速度が緩やかで、まだ小さく留まっている腫瘍で、転移の危険性がないものを言う。
 まあ言ってしまえば良性腫瘍は正常な細胞とは見た目は違うが、悪さをしない腫瘍のことで、急いで処置をしなくてもいいもの。といってもそのまま放置していいというわけではなく、大きくなる可能性もなくはないから定期的に検査して経過観察を続けた方がいいのは言うまでもないが。

ポリープが消えた

 ここで問題になるのが検査装置の精度が上がってきて、良性あるいは放置しておいても問題ない腫瘍でも腫瘍マーカーが検知しだしたことだ。例えが妥当かどうかは別にして、最近、移動式のオービスが首都圏を中心に配備されつつあるが、性能のアップが著しく、10km速度オーバーでも検知されるらしい。10kmオーバーでも制限速度オーバーには違いないが、10km超で反則切符を切られるとほとんどの車が速度違反になってしまう。それはちょっとやり過ぎだろうと思うが、機械が検知した以上、速度違反の通知が来て反則金を払わなければならない。検査装置の精度アップはこれとよく似ている。

 そう、腫瘍には違いないが、そのまま放置しておいても悪さをしないのに、発見されると医師は何もしないわけにいかず、治療を勧めてくる。小さな傷なら自然治癒があるように、小さな腫瘍は慌てて切除したり放射線治療をせず、しばらく見守るという方法もある。積極的な治療を開始したばかりに周辺の正常細胞にダメージを与え、がんそのものではなく副次的な処置で苦しむというケースもある。
 近年は悪性か良性かを見極め、良性腫瘍の場合はすぐ切除しない方向に動く傾向にある。特に大腸にできた腫瘍などは「腫瘍が見つかりましたが1cm未満の良性だから、まだ切除しなくていいでしょう。様子を見て大きくなっていたら、その時に切除でいいと思います」と言ってくれる医師が増えている。
 その一方で「大腸の内視鏡検査をしたら8つも見つかって切除した」という知人もいるが、果たして8箇所の腫瘍が皆、本当に切除対象だったのかどうか。中には即切除対象でないものも含まれていたかも分からないが、ついでだからと切除されたのかも分からない。それをどう考えるかは患者側の捉え方の問題でもある。

 私の場合、胃も腸も3年に一度、内視鏡検査を行っていたが、某医師に尋ねたところ、自分は胃は5年に一度ぐらいにしている。あまりやり過ぎるのは、と言っていたので、以来、3年を5年に一度に延ばした。
 大腸の内視鏡検査も3年に一度の頻度で行っていたが、体内、特に腸壁は薄く弱いので異物を体内に入れることで傷つくリスクがあることも考え、これも5年に一度へ変更することにした。
 そう決めたのは今まで検査で一度も異常が発見されなかったことにもよるが、前回の内視鏡検査で「ポリープが見つかりましたが良性だから切除せず様子を見ましょう。次回は4年後でいいですよ」と医師から告げられたことも関係している。
 直近の検査では、前回までの担当医師が院内移動で他の部署に移り、新しい医師が担当になったので、事前に前回の検査でポリープが見つかっていたことを伝えておいた。
 大病院なのでカルテは電子化され担当医師が変わっても履歴が見られるし、科を跨いで見ることができるため、新たな担当医師も前回のカルテを見て確認し、ポリープがあった辺りを念入りに検査してくれたが、検査後「ポリープは発見できませんでした。小さいものは腸壁のヒダの影に隠れて見つからないこともあるんですが、消えてなくなることもあります」と告げられた。
 ポリープが消えることがあるのかと驚いたが、いずれにしろ見つからなかったということは、仮にあっても良性で、隠れてしまうぐらいポリープが小さくなっていたわけで、前回切除されなくてよかったと感じた。できるだけ身体にメスは入れない方がいいと考えている。
                      (2)に続く


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