栗野的視点(No.656) 2019年8月25日
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崩壊するニッポン(5)〜「公共」が消えて行く
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この国から「公共」が消えて行く−−。社会インフラを維持するため、と言いながら次々に消えている。鉄道も、バスも、銀行も、郵便も、考えているのは自社のことだけ。「公共」という概念なんかとっくに忘れ去り、都合のいい時にだけ「社会インフラとしての使命」という言葉を持ち出してくる。
こうした動きが顕著になりだしたのは経済的には新自由主義経済の台頭、政治的には小泉政権の頃からだろう。日本的な相互扶助の精神は「自己責任」に取って代わられ、誰も彼もが自分のことしか考えなくなってきた。「公共」が死語になる日はそう遠くないだろう。
土曜日配達廃止になる郵便物
直近では日本郵便の動きに見られる。2019年8月6日、郵政省の有識者委員会は日本郵便が要望していた郵便物の土曜日配達の廃止を認める報告書をまとめた。これを受け総務省が国会に法案を提出し、成立すれば来年度(早ければ来秋)から手紙やハガキは土曜日に配達されなくなる。
メールやSNSでのやり取りが中心だから土曜日の配達がなくなっても何も困りはしない。第一、郵便物が土曜日に配達されていたこと自体知らなかった、と言う人もいるだろうが、現行郵便法では郵便物は投函から3日以内に配達(原則翌日配達)、配達頻度は週6日以上と定められている。それを配達頻度を週5日以上、投函から4日以内の配達に変更しようというわけだ。
その結果どうなるかと言えば、法改定で翌日配達も廃止になるから、木曜日に投函された郵便物は従来の金曜日配達ではなく翌週月曜日の配達になる。つまり投函から4日後の配達になるわけだ。これでは日数がかかり過ぎる、と感じるなら急ぎは速達を利用してくれ、と言う。
日本郵便が郵便法の改定を求めた背景は昨今お決まりの「人手不足」と「コスト削減」である。で、どれぐらいのコスト削減になるかと言えば、日本郵便の試算では約600億円の削減になるとのことだ。これを鵜呑みにすれば土曜日配達廃止はやむなしと思いそうになる。
しかし、日本郵便は収益改善のためと称して、近年、郵便料金を相次いで値上げしてきた。ハガキに関して言えば50円→52円→62円と値上げしてきている。年賀状も今年から62円に値上げされた。
それだけではない。郵政民営化以後、郵便物の集配業務はなし崩し的に減らされているのをご存じだろうか。民営化前までは1日2回配達されていた郵便物が今では1日1回。郵便ポストの集配回数もうんと減らしている。それなのになお土曜日配達もなくそうというわけだ。
まあ、これは日本郵便に限ったことではなく、JR各社も金融機関も皆同じで、コスト削減のためにローカル路線の本数削減を当たり前のように実施し、挙句の果ては赤字路線は廃止して地方自治体に押し付けてきている。「社会インフラとしての役目を維持」するためと称した、地方の切り捨てである。
ここには「公共」という概念はすっぽり抜け落ちている。あるいは彼らが言う「公共」とは自社と自社の利益に貢献する人々や地域のことであり、「Public」という考えはもともとないのかもしれない。
(2)に続く
「昼休み」を導入する金融機関
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