栗野的視点(No.753) 2021年11月18日
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地球温暖化の影響を受けたラッキョウ畑
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ラッキョウの花を見たことがあるだろうか。農家でもラッキョウ農家以外にはあまり見たことはないかもしれないが、写真や花の愛好家には結構人気で、赤紫色の小さな花を咲かせる。その花を目当てに毎年10月下旬から11月初旬には多くの人がカメラを携えてやってくる場所が鳥取にある。
2周遅れのトップランナーだったのに
鳥取といえば砂丘か砂の美術館(サンドミュージアム)を思い浮かべるかもしれないが、もし、砂の美術館をまだ一度も観たことがなければ、ぜひ一度観賞することをお勧めしたい。砂丘のすぐ側にあるから、場所も分かりやすい。
砂の美術館と聞いてもピンと来ない人は北海道の雪像や鹿児島吹上海岸の砂の祭典、福岡県芦屋海岸で開催される「あしや砂像展」を思い浮かべると比較的近いかもしれないが、鳥取の砂像は世界の有名な砂像作家達が集まり、毎年テーマを変えながら砂で精巧な像や建築物を再現している。
私は過去3、4回見学しているが、皆さんにもぜひ一度鑑賞してもらいたい、と鳥取県知事に代わってPRしておこう。
鳥取で残念なのは「スターバックス」がオープンしたこと。それまでは「スタバはないがスナバはある」というキャッチフレーズで売っていたのに、スターバックスのオープンで他県と同じ、ごく普通の県になってしまった。
(「スナバ」は砂場、砂丘のことだと思うが、「すなば珈琲」という鳥取県下でチェーン展開している喫茶店もあるから、もしかしてかけたのだろうか。)
せっかく「地方の時代」を先取りした2周遅れの先頭ランナーだったというのに、ただ単に2周遅れただけのランナーになってしまったのは実にモッタイナイ。これからは都会にあるものはなにもない地方こそが環境問題で先頭を走るランナーになれるし、2030年以降には間違いなく環境問題の最先端になるだろう。
温暖化とハモグレバエ被害
さて、ラッキョウの花である。4年ほど前に一度行ったことがあり、今回は2度目だ。岡山県北東部の私の実家から鳥取自動車道(片側1車線)を走って1時間半で鳥取砂丘に着く。
ラッキョウが栽培されているのは砂丘の砂地だ。保水性が悪い砂地で育つ植物は少ない。まず稲作はムリだし、他の野菜も育たない。唯一育つのがメロン、スイカなど水はけのいい環境を好むウリ科の植物にラッキョウぐらい。いずれも鳥取名物である。
花の最盛期には丘一面が赤紫色に染まり、ちょっと幻想的な風景を目にすることができる。
今年訪れたのは10月末日。ラッキョウの花が咲き出したという情報を得た後に出かけたが、現地で目にした景色は以前に見た景色とは大きく違っていた。
まだ咲き始めか。もう少し後で来た方がよかった、と落胆。それでもどこかに満開になっている畑があるかも知れないと、あちこちのラッキョウ畑を見て回ったが、いずこも変わらず。遠目に白っぽく見えるのは地肌の砂地で、所々薄紫色に見える場所もあるにはあるが、近寄って行くと薄紫色がどんどん薄くなっていく。
花が咲いていないわけでも、ツボミというわけでもない。咲いてはいるが密集していないのだ。こんな大自然で「避蜜」は必要ないし、密状態を避けて生やしているわけでもないだろうと訝っているところに軽の1ボックスカー。運転席からおばあさんが出て来てラッキョウ畑の中に入って行った。
「こんにちは。ラッキョウの花はまだ咲き始めなんですかね。前に来た時は一面紫色に染まっていたから、今年も期待して来たんですけど・・・」と声を掛けた。
「遅いことはないですよ。今が見頃なんですよ、いつもは。ですが、今年は暖かいでしょ。そのせいで害虫が飛んで来て、ラッキョウの葉を食うんですよ。ハモグレにやられているんです」
「ハモグレ? ですか」
「そう、ハエです。それが飛んで来るもんだから、私んとこだけ薬撒いても隣の畑が薬を撒かな一緒でしょうが。薬を撒いた畑から逃げ出したハモグレは薬を撒いてない畑に移動するだけですから。薬も年に何回か撒かないけんでしょうが。そうすると薬が切れた頃にこっちの畑にも飛んで来るんですよ」
ハモグレバエが葉の中に卵を産み付け、その幼虫が葉の養分を吸い取って大きくなるから葉が枯れていくのだと、ラッキョウの葉を千切って見せてくれた。老婆の説明を聞きながら「ハモグレ」は葉に潜る虫のことで、漢字なら「葉潜れ」と書くのではないだろうかと考えていた。
この害虫は広くネギ科に巣食うらしく、京都などで被害を拡大していたが、近年、鳥取のラッキョウ畑にも害を及ぼしだしたようだし、高知県のニラ農家も被害に頭を悩ましているようだ。
(2)に続く
ラッキョウの花とラッキョウ畑の写真はブログ「栗野的風景」で
http://blog.livedoor.jp/kurino30/archives/52866854.html
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