デル株式会社

 


 レナウンの経営破綻に思う。


栗野的視点(No.689)                      2020年6月2日
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レナウンの経営破綻に思う。
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 1か月ぶりに福岡へ帰ってきたこともあり、30日の土曜日、早速イオンまで出かけた。特にこれといって買いたいものがあったわけではない。言うなら「巣籠もり」生活への反動、反発である。
 「人はパンのみにて生くるにあらず」ではないが、生きるために最低限必要なことだけをやったり与えられていれば、それで生きていけるのかといえば、それは人間の生活ではない。一見ムダに見える娯楽や遊びこそが、実は生きる糧になっている。そういう意味では「巣籠もり」の強要は「人として生きる」ことをやめさせるものである。
 「命が一番大事」というが、それは語としては絶対的に正しい。だが、今回のウイルス騒動は「生か死か」の二者択一を迫るものかといえば、それは違うだろうと私は考えている。あれかこれかではなく、命も人間としての生活もともに大事なもので、それは両立できるし、また両立させなければならない。

 まあ、それはさて置きイオン笹丘店に行き、紳士用品売り場をブラブラと見ていて、あることに気付いた。「Simple life」の商品がほぼ全商品割り引きになっていたのだ。
 同ブランドはレナウンの商品で、シーズンオフに一部の商品が割り引きされるぐらいで、ほとんどの商品は割り引き除外品だ。それが今回、シーズン物も含め、全商品割り引きになっていたから目を引いた。そして次の瞬間、ああ、なるほどね、と納得したのだった。

 ご存知の方もおられると思うが、レナウンは5月15日に民事再生法の適用を申請し、実質経営破綻した。今回の値引き販売がそのことと密接に関係しているのは間違いないだろう。

 レナウンの代表的な紳士用ブランドは「ダーバン」と「Simple life」。70年代に一世を風靡(?)したブランドで、ある年齢層以上の人には馴染みあるブランドに違いない。かく言う私も両ブランド商品は今でも何着か持っているし、ある種の思い出を伴い、その時代の感覚を鮮やかに蘇らせてくれる。
 「ダーバン」はアラン・ドロンを、「Simple life」は高倉健をCMに起用したことも商品のヒットに貢献した。あの頃のレナウンは輝いていた。女性ものでは「イエイエ娘」のCMでニットの新しい提案をしていたし。

 レナウンがというより、時代が輝いていたのだろう。そう言えばチャールズ・ブロンソンをCMに起用し、「う〜ん、マンダム」と言わせた男性化粧品が70年に大ヒットした。
 「マンダム」というのは商品名だったが、あまりにヒットしたため、社名をそれまでの丹頂株式会社から株式会社マンダムに変更したほどで、広告の持つ力を社会に知らしめたことでも知られている。なんといっても倒産寸前だった丹頂を不死鳥の如く蘇らせたのだから。

 ブロンソンといえば「狼の挽歌」「夜の訪問者」「さらば友よ」などの映画作品で知られるが、私が最初に見たのはフランク・シナトラ主演の「テキサスの4人」だったように記憶している。
 当時、大阪で予備校生活をしており、勉強疲れを癒すためと英語の勉強(?)のためと自分自身に言い聞かせ、3本立て100円だったか200円だったかの三流映画館で西部劇をよく観ていた。3本も観ていると気分転換を通り越すので、いつも観るのは1本だけだったが、いつも一番後ろで立ち見をしていたような記憶がある。
 その頃、観ていた映画のブロンソンは大抵、最後に殺される悪役。顔もとてもハンサムとは言えず、後にあんなにいい俳優になるとは想像もしなかったが。

 話をレナウンに戻そう。私の「Simple life」の思い出は1978年まで遡らなければならない。その年、初めて中国に行き、その時に着て行ったのが「Simple life」のコートだった。今ならさしずめダウンコートだろうが、その頃ダウンコートは出回っていなかったのか、販売はされていても高くて手が出なかったのか。恐らく後者だと思うが「Simple life」のコートを買い、着て行った。
 当時の「Simple life」はその名の通りSimpleで、今で言えば「無印良品」的な洗練されたカッコよさがあった。

 最近でも「Simple life」の売り場には必ず寄るには寄るが、今一つ買う気にならない。また買った後の満足感も欠け、買いはしたものの愛着という分には程遠いのだ。
 例えば30日の日も何着か袖を通してはみたものの、割り引き価格から考えればお買い得だったのだろうが、購入意欲をそそるものがなかった。

 今、売っているのはカジュアルな薄物ジャケットやトラベル用ジャケットにベスト等々。ところが、これが使い勝手が悪い。デザイン重視で、実用的でない。
 このところ「Simple life」に共通しているのは非実用的という点。例えばトラベル用を謳うならポケットは大きい方がいい。いわゆるガラケーさえ入らない胸ポケットは飾り以外の何物でもないし、内ポケットに留めボタンが付いていないトラベル用ジャケットなど恐ろしくて着られないだろうと思うが、そういうことにこのブランドはもう何年も無頓着だ。これでは売れるはずがないし、少しぐらい市場調査をしろよ、と思ってしまう。

 さらに悪いのは生地が薄くペラペラで、着ると安っぽく見えてしまう。そのくせ値段だけは高い。これならワークマンプラスとまでは言わないが、ユニクロ商品の方がよほどランクが上だ。
 まあ、こんな具合だから販売不振による経営破綻は、今回の「コロナ」騒動が直接的な引き金になったと言われているが、「コロナ」騒動がなくても1年以上の延命は無理だっただろう。


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