ここ数年、高齢ドライバーによる事故がメディアで多数報じられている。中でもアクセルとブレーキの踏み間違いによる事故と、高速道路の逆走が「多発」しているようだ。
実際、メディア報道を見ていれば高齢ドライバーによる交通事故が連日のように報じられるので、そうした報道に接していれば高齢ドライバー=認知症発症=危険という図式が成り立ちそうだし、高齢ドライバーによる事故が増えているように感じる。
「100匹目の猿現象」か
そこで疑問が湧いてきた。一つはなぜ急に高齢ドライバーの事故が増えているのか。それは何が原因なのかということと、もう一つは本当に高齢ドライバーによる事故が増えているのかどうかということだ。
前者は「高齢ドライバーによる運転事故が増えている」という前提に立った疑問だが、まず思い浮かんだのが「100匹目の猿現象」。
この言葉はアメリカの科学者、ライアル・ワトソンのよる命名だが、元になったのは宮崎県幸島(こうじま)の猿の行動から。幸島は宮崎県串間市の沖合の無人島で、野生猿約100匹が生息している。詳細は省いて簡単に説明すると、最初1匹の猿が芋を小川の水で洗って食べるようになり、その行動を他の若い猿達も少しずつ真似ていき、やがて大半の猿達が水洗いして芋を食べ出した。
そして、その頃、幸島から遠く離れた大分県高崎山の猿の中にも芋を水で洗って食べる行動が見つかったのだ。
「芋を水で洗って食べる」という情報が距離、空間を超えて遠隔地に伝達したわけだが、そうなるにはある一定数の猿達がそうした行動を取る必要があり、ある数に達するとそれが情報としてテレポートすると言える。
ワトソンが100匹と言ったのは実数としての100ではなく、一定量を表す象徴的な数字として示したわけだが、質の変換には量的増大が必要ということでもある。
こうした「100匹目の猿現象」はあらゆる分野で見ることができる。このところ頻発する「ブレーキとアクセルの踏み間違い」も「100匹目の猿現象」だとすれば多少納得できる。
「100匹目の猿現象」という説明に納得できない向きにはもう少し科学的、数学的な説明をしてみよう。「2017年問題」という言葉を見聞きしたことがあるだろう。団塊の世代(人口統計的に1947年〜1949年生まれを指すが、1950年、あるいは1951年ぐらいまでを含め、「人口が多い世代」というような意味合いで使われることもある)がこの年から70歳を迎えだし、高齢者人口が激増してくる。数が増えれば比例して事故件数も増える。結果、このところ急に高齢ドライバーの運転事故が増えているように見えるのは自然の成り行きでもある。
運転事故は全年代で減少傾向
では、本当に高齢者による運転事故は増えているのか。
そこで警察庁交通局が発表した「平成27年における交通事故の発生状況」を見てみると、この10年間でドライバーによる交通事故件数は各年齢層で全て減少している。年齢別に平成27年の交通事故件数が多い順に並べると次のようになる。
1.16〜19歳 1888.8件(免許保有者10万人あたり)
2.20〜29歳 1959.0件
3.80歳以上 1551.3件
4.70〜79歳 1259.6件
5.30〜39歳 1171.4件
6.40〜49歳 1076.5件
7.60〜69歳 1033.3件
8.50〜59歳 1014.4件
問題は高齢ドライバーの事故だけ増えているのか、それとも他の年齢層と同じように減っているのかだが、10年前と比べた減少率で見ると、各年齢層とも似たり寄ったりだが、16歳〜19歳、80歳以上の減少率が低く、次いで20歳〜29歳、70歳〜79歳となっている。
高齢者による事故の減少率はこの10年間であまり下がってないといえる。ただ、元々の発生件数は低いまま推移しているから、このところ高齢者の運転ミスが増えているとは言えない。
ついでに補足しておくと、従来、高齢者は65歳以上と定義されていたが、今年に入り75歳以上にすべきという提言が発表された。メディアでは今まで65歳以上を「高齢者」と表記してきている。上記の表からも分かるように60代で運転免許保持者の交通事故発生件数は下から2番目に低い。
つまり65歳以上の60代も高齢者と表記することで、実際に事故発生が多いのは75歳以上にもかかわらず、高齢ドライバーの事故発生件数を多く見せている嫌いがある。その結果、高齢ドライバーの運転=危険というイメージを拡散していることになる。
(2)に続く
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