今号は産業技術総合研究所招聘研究員・清水肇さんから、栗野的視点No.443(ネ
ット利用を制限する企業が増えている)に関連してメールが届いたので、お届けし
ます。(清水さんからのメールは色字で表示)
SNSの問題に関して、最近思う事が在ります。
仕事中のマナーや効率の悪い働きという事は、組織の在り方、組織力の生かし方、個人の資質に何を期待し、しかも属人性や帰属意識の持ち方にも大きく関わるので、私も興味ありますがなかなか議論には踏み込めません。
アメリカYahooのCEOが在宅勤務を制限し、オフィスでFace to Faceの仕事スタイルに変える変革を提案し社内で相当な議論になっているようです。もちろん在宅勤務で効率が上がるという反論と、コミュニケーションや議論が創造性に繋がるという議論の対決でしょうか。IT技術の進展で勤務スタイルの変わったこと、特色を生かすと行った立場を強く主張し、グーグルやシスコなどの例を掲げ在宅勤務で効果を上げているとの言い分も有ります。
一方、合意しないなら経営的に体の良い首切りの施策だという議論にも発展してる様です。
今年の2月頃に話題になった件ですね。
googleの役員だったマリッサ・メイヤー氏がyahooのCEOにヘッドハンティングされ、「6月の初めから、現在在宅勤務契約になっているすべての従業員にオフィスで働くよう依頼する」と宣言し、賛否両論が飛び交い話題になりましたね。
彼女は自由な勤務形態で知られるgoogleにいたわけですから、ただ単に古い勤務体制に戻そうとしたわけではないでしょう。
この件はyahooが抱えている個別の問題(一体誰が社員で、誰が社員でないか分からない、いうなら幽霊社員も一杯いた)もあるでしょうが、時代の先端を行っているIT企業がある部分で武器としてのITを否定する動きに出たわけですから面白いですね。
人は新しいものを「進歩」と捕らえる傾向がありますが、果たしてそうなのかという問題も孕んでいますね。例えばダーウィンの「進化論」も進化=進歩というような意味で一般に捕らえられていますが、ダーウィンの自身は「evolution」という語を積極的に使っていませんし、evolution=進化と訳したのは誤訳だとも言われています。
evolutionの語源は「展開」というラテン語からで、価値判断を含む「進歩」ではなく、純粋に変化を意味する語で、ダーウィンは「自然選択」という言い方その他をしているようです。「環境適応」という語の方が的確ではないでしょうか。
進歩していったわけではなく、環境に適応するように「展開」していっただけで、生き残っているもの、いま世の中に受け入れられているものは必ずしも「進歩」したものではないということです。さらに言うなら「退歩」もあるわけで、人類は進化はしたものの、果たして進歩しているかというと、近年の状況を見ると首を傾げざるをえません。
在宅勤務も進歩ではなく「展開」であり、勤務形態の一つにしか過ぎないわけで、それを採用しようと禁止しようと大騒ぎするような問題ではないように思います。
大騒ぎするのは在宅勤務=進歩と捕らえているからではないでしょうか。
オフィスでも、あるいは研究所でも以前は欧米型の個室スタイルが好まれましたが、最近は欧米でも大部屋、そこまで行かなくても解放空間の共有が必要と言う意見もかなり出てきてます。一方日本は、ウサギ小屋と言うイメージが長い間続いて、個室は役員などに限られていました。
スペースや対人関係の問題のみならず仕事の性格にも依るでしょう。先ほどのヤフーの議論でも、喫茶店や何処でも本人の脳の活動状況を生かせる時こそオリジナルなアイディアは湧いてくると言う主張が有りました。ソフトの世界などはそうかなとも思います。
評価側は仕事の性格や成果物に対してオリジナリティーといった評価軸に注目し、費用対効果や時間対効果の議論が次に来るでしょう。プロセスの評価をどう加味するかが日本では注目されないのかもしれません。
この様な質を伴う議論、能力が有ると自認する人の場合は、辞める、辞めてもらうと言うケースまでも発生するでしょう。会社全体に跨る組織の問題では個別の事情の話ではないので、中々収束しない議論とそれに対してこれでやるというリーダシップの綱引きかも知れません。Yahooの議論を見守りたいです。
我々日本人は戦後、アメリカの豊富な物資に驚き、アメリカ=進歩と捕らえ、なんでもかんでもアメリカの真似をしてきました。80年代後半には「ニューヨークでは○○」と言う人が身近にも多くいました。
曰く、NYでは赤信号でも皆渡る。曰く、アメリカでは盲腸の手術など日帰り。出産でも日帰り。それに比べて日本は云々。
いずれもアメリカ=進歩という価値判断をしているわけです。だから我々も見習うべきだと。
少し考えると、これはおかしなことだと分かります。遵法精神がないことを持ち上げているし、医療費が高すぎるから入院できないだけなのに、さぞかしアメリカ流医療は進んでいるかのようなニュアンスで伝えているわけですから。
(2)に続く
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