歴史は進歩しているのか、それとも退歩か(2)


コンピューター頼りのリスクも

 今最も注目されている技術の一つに自動運転技術がある。ドライバーがハンドルやアクセル、ブレーキ操作をしなくても、車が全ての運転操作を自動で行い、目的地まで連れて行ってくれる。これなら事故など起こりようがなくなる(と思わせられている)。
 そこまで完全全自動でなくてもぶつかりそうになると車が自動でブレーキをかけるアシスト装置はすでに一部実行に移されている。こうした技術がもっと広がればアクセルとブレーキの踏み間違い事故はなくなる(と宣伝されている)。
 その通りだろう。しかし、と言いたい。技術の過信は危険だ。原子力発電がいい例ではないか。かつてあれほど安全だと言われたが、いまや原発を安全と考えている人は極々一部の人だけだろう。

 車だってそうだ。昔の機械式車はシステムがシンプルだったから、ちょっとした故障などはボンネットを開けてドライバーが自分で直せた。そういえば私が最初に乗った車は中古の安い商用バンだった。免許取り立ての人間にいい車は乗せられない、動きさえすればいいからとポンコツ車を会社があてがったのだ。後に分かったことだが車両価格10万円だったらしい。もちろん当時の金額でだが、ポンコツ車だったのは間違いない。
 交差点で一時停止する度にギヤチェンジができなかったのには参ったが、そのうちギヤが入らない時はボンネットを開けてギヤミッションに鍵型のパイプを引っかけてガチャガチャと上下に動かすとギヤが入るようになることが分かり、ギヤチェンジが出来なくなるとボンネットを開けてガチャガチャとやっていた。

 こんな車に乗っていたから否応なく車の手入れを覚えていったが、今の車は全てコンピュータ制御。エンジンオイルの汚れ具合でさえ自分の目で確かめることができない。外気温が3度まで下がった、トランクが半開き、ライトが切れた、オイル量が少なくなったといっては音と警告灯で知らせてくれる。
 親切この上ないが、走行中に突然、警告音がし警告灯が点くと逆にビックリしてしまう。それこそ高齢者はその瞬間に慌てて運転操作をミスしないかと思ってしまう。かく言う私自身、外気温3度で警告音を最初に聞いた時は「えっ、何事?」と驚いた。

 コンピューターが常に理性的で無謬なら問題ないが、現段階では残念ながらまだ「神」の領域には達していない。「神」の領域に達すれば、それはそれでまた恐ろしいことであり、新たな不安が増すことにはなるが。
 パソコンでさえDOS時代とWindows時代では雲泥の差で、Windowsになってからはバックグラウンドで何をされているのかが皆目見えなくなった。しかも、突然不調になる。それ以上に怖いのが勝手に情報をどこかに送信されていることだ。Androidはもっと怖い。頻繁にアプリが更新されるが、その大半はバグ潰しのようだ。これは裏を返せば不完全な製品を世に出し、問題が起きれば更新と称して直しているということだ。
 スマートフォン程度ならまだ許せるが、誤作動が人の生死を左右する車のようなものだとどうなるか。考えるだけでも恐ろしい。かといっていまさら車のない生活は考えられないし、受け入れられないだろう。

 本来モノづくりはシンプルな方がいい。ところが利便性・快適性を求めるあまり、どんどん複雑になっていく。いまや車はメカ(機械)ではなくエレクトロニクスの集積だ。整備・修理する側もメカの知識以上に電気系の知識が求められる。コンピューターで診断をし、コンピューターで整備チェックをする。
 楽にはなったが、コンピューターに頼った仕事になり、木を見て森を見ずでメカの仕組みを忘れ、現象的に表れたところしか見ないから他の箇所との連動不具合を見落とすことにもなる。もし、診断コンピューター自身が誤作動していたらどうなるのだ。誰もそんなことまで考えないのだろう。

 燃費面からのみで持てはやされているハイブリッド車だが、技術の複合にはリスクも付きものだ。ある日突然いつもと違う動きをする。そういう不調をパソコンでは誰もが一度や二度は経験したことがあるはずだ。車でも同じことが起きる可能性はあるが、そのことはあまり懸念されてないのか、それとも密かに修理されているのか。不具合が多発した段階でリコールし、修理しているのか。
 いずれにしろ仕組みが複雑になればなるほど、1箇所の不具合が別の箇所の不具合と連動していることが多くなるから原因箇所の解明・修理も時間がかかるし難しくなる。

 こう見てくると、技術の進歩は我々の生活を本当に豊かにしているのかどうか疑問に思えなくもない。科学技術の進歩を見て、歴史は進化していると言えるのかどうか。さて、歴史は前進しているのか、後退しているのか、それともらせん形を描きながらでも前進しているものなのかどうか。少なくとも国際政治に関して言えば、後退局面に入ったのは間違いない。


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