中小企業で後継者不足から廃業する企業が増えているというニュースが昨今、メディアを賑わせているが、それ以上に問題なのは後継者の選び方ではないだろうか。むしろ、後継者選びに失敗した結果、事業継承に失敗したと言えるのではないか。
先代がいつまでも現役で居続けることからくる弊害、バカ息子を後継者に据えたが故の失敗、外部(から招いた)人材に会社を乗っ取られた(牛耳られた)等々。中でも最悪なのは資本と経営の分離を口実に、気が付いたら会社を乗っ取られていたというケースだ。実は最近このケースで揉める例が増えているだけに要注意だ。
ソフトバンク、お前もか
6月21日、ソフトバンクグループが代表取締役副社長ニケシュ・アローラ氏の退任を突然発表した。表向きの理由は、60歳で後継者にバトンタッチするつもりだった孫正義氏が、60歳を目前にした途端「急に寂しくなった」、「もう少しやっていたいという欲望が出た」から、今後も5年、10年、社長を続けていくと言う。そこで話し合いアローラ氏の退任が決まったというが、これを言葉通りに信ずる者はいないだろう。
創業者のわがままを演出し、アローラ氏もそれを受け入れての円満退社と両者でアピールしていたが、アローラ氏の退社が株主総会の前日だったこと、それも唐突に決まったこと、さらにその前に投資家グループによりアローラ氏の副社長としての資質に問題があるとの書簡が寄せられていたことなどから、なんらかのマズイ問題があったのは想像に難くない。
アローラ氏もここで揉めるよりはすんなり退社した方が得策と踏んだのだろう。なんといってもビックリするほどの報酬を得ていたのだから。かくして両者は互いを認め、褒めたたえ合いながら分かれるという「大人の対応」をしたというところだ。
まあ、ソフトバンク内部の問題は別にして、この1年近くの間にカリスマ経営者とその周辺で同様というか、内部権力闘争とでもいうべき問題がいくつも繰り広げられたのは記憶に新しい。
ひと言で言えばバトンタッチの難しさということに尽きるが、その一方で「老害」問題も見え隠れする。
いくら長寿社会とはいえ80歳前後でまだ代表権を持つのは異常だろう。そういう人に限って自ら恥じることがない。その歳まで後継者を育てられなかったことをこそ恥じるべきだと思うが、その部分はすっぽり抜け落ちて、権力を手放さないことのみ考えている。孫氏もマイクロソフトのビル・ゲイツ氏を見習ったらどうだと思うが、それはなかったようだ。
思わず失笑したのは株主総会で社外取締役の2人が揃っていつまでも孫氏に社長を続けるようにと発言したことだ。「孫社長はまだ60にもなっていない。なのに引退? 冗談じゃないぞ」(ファーストリテイリング・柳井正氏)だって。
そういえば柳井氏も自身が進めた多角化が失敗し、業績が悪化した時期に社長職を譲り、自らは会長職に就いた。といっても責任を取って社長を譲ったわけではなく、「逃げた」というイメージを持ったのは私一人だけだろうか。だが「普通の会社」になるのが我慢できず、結局、社長に復帰して代表取締役会長兼社長だ。
自らの失敗の責任は取らないが、他人のわずかなミスも許せないのがワンマン経営者の常。どこぞの都知事と似ているが、それを地で行くワンマン創業者だけに「孫さんみたいな人はいない。だから次の後継者は、孫さんのような方ではなくて、事務経営をされる方にしなさい」とアドバイスしたと言う。
「事務経営をされる方」とはどういうことを意味しているのだろうか。路線は全部自分が敷いておくから、後継者はその路線通りに進むだけでいいということなのか。とすれば、それが可能なのは自身がまだ元気な間で、それでは真の意味で企業の後継者ではないだろう。
まあ、それはともかく古今東西、「帝国」と呼ばれる組織は必ず没落しているし、「カリスマ」と呼ばれたトップも例外なく最後は身を亡ぼしている。「帝国」だ「カリスマ」だと言われて喜んでいると「ブルータス、お前もか」と叫ぶはめになる。そうなる前に後継者にバトンタッチしておくべきだろう。その前に後継者足り得る人材を育てておかなければならないが。
(2)に続く
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