菅首相の携帯電話料金値下げ要求はMVNOを潰す(1)


栗野的視点(No.708)                   2020年10月5日
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菅首相の携帯電話料金値下げ要求はMVNOを潰す
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 菅義偉氏が首相になり力を入れているのが携帯電話料金の引き下げ。「日本の携帯電話料金は諸外国に比べて高く、3大キャリアは儲け過ぎており、40%は引き下げる余地がある」と言う。
 数年前までなら確かにその通りで、電話料金の値下げはいいことだと賛成するが、今は素直に喜べない。

3大キャリアは低料金プランも

 というのも、この数年でドコモを始めとしたキャリアの電話料金は下がっているし、低価格プランも増えているのが1つ。もう1つはMVNOと呼ばれる格安SIM取り扱い会社潰しになるのではないかと危惧するからだ。

 この種のことは過去何度も繰り返されてきた。例えば航空運賃。規制緩和で参入障壁を下げ、競争による運賃低下を目論んだが、国内の格安航空会社はほぼ全滅。結局、大手航空会社の傘下に入り経営の立て直しをせざるを得なかった。
 携帯電話もSIMロックを外しSIMフリーにするように法改正をした結果、多くのMVNOが生まれたのはいいが、格安航空会社と同じ道を辿るのだろうと踏んだ通りになりつつある。

 まずソフトバンクが格安携帯電話会社ワイモバイルを設立してサブブランド化。さらに最近、MVNOのLINEモバイルを子会社化した。
 KDDIも格安SIMを扱うビッグローブを子会社化。さらにUQモバイルを子会社化し、キャリアからMVNOまでをグループで扱えるようにした。ワイモバイル、LINEモバイル、UQモバイルは他のMVNOと違い豊富な宣伝費を使ってPRできるだけでなく、親会社のキャリアから回線を安く仕入れることが可能になり、他MVNOとの競争で優位に立てるようになった。

 3大キャリアで唯一サブブランドを持ってないのがドコモだが、ドコモは大半のMVNOに回線を卸しており、そこから上がってくる売り上げが大きいこともあり、同社がサブブランドを持つ可能性は低い。その代わりに出した答えがNTTによるドコモの完全子会社化である。

「合理的かけ放題プラン」が広がるか

 キャリアはさて置き、格安SIMを扱うMVNOはといえば当初は安いデータ通信がウリだけだったが、その後プレフィックス電話の導入により30秒20円の通話料金を30秒10円と半額にしたり、3分とか5分かけ放題プランを導入するなどの努力をし、加入者数を増やしてきた。
 それでも3分、5分のかけ放題はやはり使い勝手が悪いし、データ通信料にしても月10GB以上の大容量の通信料は高いという不満が募っていた。
 またキャリアの2年縛りに比べれば短いとはいうものの、実質1年の縛り期間はある。

 これらが邪魔をしてMVNOへの移行をためらうユーザーは多い。そこでMVNOの中にはよりユーザーサイドに立とうと努力する企業も現れだした。その一つが10分かけ放題プランの導入である。3分は用件のみのビジネス電話的で、5分でも通話時間を見ながらの通話しかできず、両方とも精神状態はよくない。その点、10分になるとある程度余裕を持って通話ができる。というわけで今は10分かけ放題を導入するMVNOが増えている。

 ユーザーが本当に望んでいるのはキャリア並みの時間制限なしのかけ放題だが、これには回線の卸価格(プレフィックス電話との接続料)の問題がある。卸価格が安くなれば通話料の値下げに踏み切ろうとするMVOはいるわけで、その1社が日本通信だ。
 同社はNTTドコモの卸価格値下げで総務省の裁定に持ち込み、12月末の結論を先取りする形で7月から「合理的かけ放題プラン」の導入に踏み切った。

 このプランは通話中心の高齢者などには歓迎されるプランだし、個人的にも大歓迎で日本通信に替えたいと考えている。ただ、現在利用中のMVNOからの移動料金が安くなる1年近く待ってからと思っている。
 もう一つは、これが多くのユーザーと共通する点だろうが、日本通信のSIMに切り替えたユーザーの声を聞いてから、実際の通信速度や品質などを判断してから決めたいと考えている。
                              (2)に続く

 


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