「スーパーカブ青年」の後日談


栗野的視点(No.733_1)                 2021年5月12日
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
スーパーカブで全国一周をしている青年に会った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 4月29日配信した栗野的視点(No.733)で「スーパーカブで全国一周をしている青年に会った」話を書いたが、この話には後日談がある。

 5月8日、いつもなら早朝ウォーキングに出かけるのだが、この頃は起床後、庭の挿し木に水遣りをし、草取りを小1時間してから朝食をとるのが日課になっていて、しばらくウォーキングはお休み状態だったので、夕刻近くにはなったが久し振りにウォーキングに出かけた。

 歩くコースは大体2コースあって山の方へ歩くか、逆方向の川沿いに歩くかだが、どちらも歩数にして6,000歩程度。ただ、筋トレウォーキングなので多少汗ばむ程度の大股歩きである。
 この日は川沿いコースに決め、いつものようにポールウォーキングを始めたが、原という部落に差し掛かった時、バイクで全国一周をしている青年のことが頭を過った。
 あの日、原の農場に泊まる予定と言っていたが、うまく泊まれたかどうかが気になったのと、宿泊予定地の「養鶏もしている農場」というのも気になった。私が知る限りでは原部落に「農場」などは聞いたことがなかったからだ。

 で、ウォーキングがてら訪ねてみることにした。といっても目当てがあるわけではないから誰かに場所を尋ねなければならない。幸いなことに最近、原部落で知り合いになった家を外から窺うと、先だって話をしたご主人が庭にいたので、駅で出会った青年がカブで全国一周をしており、その夜はこの部落の農園に泊まると言っていたが、農園がどこにあるか知らないかと尋ねた。
「養鶏場もやっている農園? 聞いたことはないな」

 農園といっても名ばかりの農家だろう。家の名前を言えば分かるかも知れないが名字は聞いていなかったし、とそんなことを考えながら少し立ち話をしていると、上の方に犬を飼っている所があり、犬の声が聞こえてくるから、そこらではないかと多少の手がかりめいたことを教えられたので、もう少し山手の方まで歩いてみることにした。
 距離にして1kmぐらいらしいから、ウォーキングの延長と考えればいい。ただ、田舎で困るのは何かを尋ねたくても人の姿が見当たらないことだ。
 しかし、この時は運がよかった。この先には家がなさそうな集落の外れの家で草刈りをしていた年配の女性の姿を見つけて声をかけ、農園をしているところがあるらしいが知らないかと尋ねると、農園はさらに山の上の方で車でなければ、歩いては行けないだろうと言われたが、住まいはすぐそこだと指さされて教えられた。

 残念なことに若い奥さんしかいなかったが、彼女にバイクの青年のことを尋ねると「うちに泊まりましたよ」ということだった。翌日は姫路に向かったのだろうと思ったが、「計画が変わって、彼はまだウチに泊まっているんです。気に入ったみたいです。近々彼女もここに来るって言っていました」とのこと。
 なんという展開。元々見ず知らずの人間同士が会い、一夜の宿を借りるだけの予定だったのが、山の上のポツンと一軒家での生活に触発され、福井に帰ったら養鶏をすると決めたらしく、養鶏を学ぶために彼女まで呼んだという。
 だから人生は面白い。こんな展開は絶対リモートやオンラインでは起こり得ない。やはり人と人が会うことで刺激しあい、新たな方向が生まれる。

 ところで農園の若き経営者は地元出身者ではなく、関東からの移住者。奥さんの出身地は姫路だと言っていたが、どうやら福島原発事故の後、西への移住を考えて、この地に移ってきたらしい。
 美作市を選んだのは「市の担当者がとても熱心な方で、色々してもらいました。土地や家探しも。当時は『ドリーム課』というのがあったんです。いまはなくなりましたけどね。その関係で何人か移り住んでいます」
 どうやら他にも他地域からの移住者が居るらしい。

 農園経営者は先頃、アフガニスタンで殺された中村哲医師の元で仕事をしたこともあるとのこと。追悼会には家族で福岡まで行ってきたようだ。
 この日、彼に会えなかったのはちょっと残念だったが、農園自体が山の上の方なのに、さらに山を超えた別部落にも畑が2箇所ぐらいあるらしく、案内をしてもらったお婆さんの話でも休耕田や耕作放棄地を次々に借りて農業をしているとのことだった。
 次回、改めて出直したいが問題は山道がとても狭いこと。軽トラックでもなければ恐ろしくて農園がある場所まで今の車でもう一度行くのはリスクが高すぎると思い二の足を踏んでいる。



(著作権法に基づき、一切の無断引用・転載を禁止します)

トップページに戻る 栗野的視点INDEXに戻る



FUJIFILMプリント&ギフト/フジフイルムモール

molecule(モレキュル)