Google
liaison-q.com を検索
WWW を検索

 


凶悪犯罪は増えているのか(2)
〜横溝正史も注目した日本犯罪史上空前の惨劇〜



周到な事前準備

 この事件を特徴付けているもう1つの点は、殺害対象を自分と情交があった相手とその家族にほぼ限定していることと、用意周到な準備である。
 犯行を決意したのは1年前。
「農工銀行より金を借用し鉄砲を買い猟銃免許を受けて火薬を買った。そうして銃が悪いので又金を個人借用をして新品を神戸より買った。そうして刀を買い短刀を求めた」(犯人の「書置」)
 犯行直前には電柱に登り送電を断ち、その部落だけを停電させる細工をしたり、事前に駐在所等と現場の間を自転車で走って、通報された場合の所要時間を計るなど、用意周到さが窺える。
 この点が昨今の無差別殺人事件と少し異なると言えば言えるが、ここまでの用意周到さはなくとも、昨今の無差別殺人事件の場合も事前に下見をしたり、凶器を前もって準備している点では共通している。

大半は事前兆候あり

 問題は、これほどの計画性を持ち、準備した犯行をなぜ事前に察知できなかったのかということだ。もし、事前に察知していれば惨劇は防げたはずである。
 実は察知できていた、前兆はあったのだ。
犯行の1年前に猟銃を買い、持ち歩いて村人に見せたり、猟銃を持って夜這いに行ったりしている。また犯行を臭わす様なことも周囲に話していた。昨今ではインターネットの掲示板への書き込みがこれに加わるだろう。

 さらに犯行の2、3か月前に連日の様に猟銃を発射する音を同じ部落の住人が耳にしているし、2か月前には警察の手入れを受け猟銃その他をすべて没収されてもいる。きっかけは犯人の祖母が身の危険を感じ、親戚の家に逃げて不安を訴えたことから駐在が出掛ける事態になったのだ。
「その時の僕の失意落たん実際何とも言えない。・・僕は泣いた。・・けれども考えようではこの一度手入れを受けた事もよかったのかも知れん。その後は・・祖母を始め親族の者は安心したようである。僕はまたすぐ活動をかいしした」(犯人の「書置」)

 多くの凶悪犯罪にはほとんど事前兆候が現れている。1997年に起きた神戸児童連続殺傷事件(酒鬼薔薇事件)もいくつかの事前兆候(事件)があり、その段階で対応していれば後の惨劇は防げたはずである。小動物の虐待は事前兆候の重要な1つであり、こうした小さな「異変」を見逃さず、それらを「事件」として捜査することが次の惨劇を防ぐことになるのではないか。
 オウム真理教が引き起こした地下鉄サリン事件も事前兆候はいくつもあった。より早い段階で強制捜査に着手していれば防げたのではないか。しかも、そのチャンスは少なくとも一度はあったということが最近の検証番組などで明らかになっている。

模倣と強い自己顕示欲

 本稿前段で「この本で同時代の多くのこと(例えば阿部定事件)を知り得た」と書いたが、「津山三十人殺し」の2年前、昭和11年5月18日に「阿部定事件」が起きている。同書では「阿部定事件」のことを詳しく報じているが、「津山三十人殺し」の犯人はこの事件にずいぶん影響を受けた風があり、「阿部定は好き勝手なことをやって、日本中の話題になった。わしがどうせ肺病で死ぬなら、阿部定に負けんような、どえらいことをやって死にたいもんじゃ」と言う犯人の言葉を載せている。

 どうせ結核で死ぬなら、世間の注目を集めるようなことをして死にたいという身勝手な自己顕示欲。この身勝手な自己顕示欲は昨今の事件にも多く共通する。
 もう一つが事件の模倣。最近、模倣犯が増えていると思われるが、模倣は情報の伝達から起こる。逆に言えば、情報を遮断すれば模倣は起こりえないわけだ。ただ、情報化社会の現代で情報を遮断することは難しい。しかし、情報の繰り返し伝達を減らすことは十分可能だ。この点ではマスメディアの果たす役割は大きい。
 要するに彼らマスメディアが凶悪犯罪を毎日、何度も繰り返し報道するのをやめさえすればいいのだ。特にTVが。はっきり言えば、報道する側の姿勢こそが問題なのだ。映像で、殊更に繰り返し報道することで、その事件を目立たせることになり、それが次の模倣を招き、「あれ以上に目立つことをしたい」という自己顕示欲を掻き立ててもいる。

 さて、こう見てくると、昨今急に犯罪が凶悪化したわけでもなく、凶悪犯罪の内容は今も昔も変わらないようだ。違うのは理由なき殺人が増えたことだろう。
 では、凶悪犯罪を防ぐ手立てはないのか。それは負の連鎖を断ち切るしかない。犯罪の事前兆候に目を光らせ、その段階を見過ごしたり、軽く考えずに、きちんと対処することだ。そうすることで次に起こる凶悪化する犯罪を防ぐことになる。犯罪が凶悪化しなければ模倣の凶悪化も防げるはず。
                                              (1)に戻る



(著作権法に基づき、一切の無断引用・転載を禁止します)

トップページに戻る 栗野的視点INDEXに戻る