「プロに聞くシリーズ1回目」はビジュアルカラー研究所の伊藤 恵美子代表(ブログ「色を読む」)に「なぜ今、食業界に黒が使われているのか」というテーマで質問しました。(これは昨年やり取りした内容を収録したものです)
栗野:ここ数年、色で言えば黒が流行っています。
不思議なのは従来の感覚では嫌われた食業界にも黒が積極的に使われだしたことです。
例えば北部九州で店舗展開をしている食品スーパー・ハローデイは店舗カラーに黒を使っています。
黒は寒色系の色で、従来、食関係には赤とかオレンジなどの暖色系を使うと言われていたはずです。そのほうがおいしく見えるから。それなのに、最近はボトル飲料のラベルにも黒を使うなど、食業界で黒が使われ出しています。カラーの専門家としてはこの現象をどういう風にご覧になりますか。
食の色彩について
伊藤:本来食欲を喚起する色は赤〜黄赤〜黄の暖色系の色です。
これら長波長の色はアドレナリンの分泌を活性化し食欲を刺激することと、食品に多い色相であるため美味しいという感覚がDNAにすり込まれていることが食欲へつながっています。
一方、短波長である青〜紫は自然界にある食物では極端に少ない色なので食欲がわきません。逆に、口にすることに嫌悪感を覚えることもあります。
白、黒についてはあまり多くはないのですが、日本では米、豆腐、のり、ごまなどのよく親しまれた食品があるので心理的には抵抗は少ないようです。ただ食欲に関する色彩の生理的効果はそれ自体にはありません。
健康志向が「黒」人気を煽る
最近は健康志向で黒い食品に異常なほど人気が集まっています。黒酢、黒ごま、黒豆、黒豆茶、黒納豆、黒米、黒糖、黒ビール(これは健康食品ではありませんが)など・・・。 実際に、黒豆には良質のタンパク質、ビタミンE、B、イソフラボン、黒酢にはアミノ酸、黒米にはカルシウム、鉄分、ビタミンBなどが多く含まれています。 現在の健康志向、ダイエットブームでテレビ、雑誌で頻繁に取り上げられる事からさらに黒い食品人気に拍車がかかったようです。 色彩心理面からみて黒は一般に高級、本物をイメージとして表現し易い色です。あくまでも、プラスの色彩効果として考えた場合ですが。(どの色にもプラスとマイナスの両イメージがあり、それは感じる人の過去の経験やその色が使われる状況、または組み合わせる色やその分量によって変わります)
ここ2〜3年程前から日本でも盛んにいわれだしたスローフード、同時に食に関する不信感などから、時代は少しぐらい高くても安心、安全を手に入れたいというムードが高まっています。
カラーポジショニング的に空白の色 と同時にモノも店も飽和状態であることも一つの要素であると言えます。 色彩に関してもここ数年は多色の時代、飽色の時代がかなり長くつづいています。 カラーマーケティング的に見ても食業界のカラーポジショニングで空いているのは黒以外にないと言っていい程です。 キリンがアディダスとのコラボで出したクエン酸飲料903も当然黒しかないという狙いでパッケージ開発しています。(残念ながらクエン酸飲料にはアミノ酸ほどパワーがなかったのか味が今一だったのか903は既にスーパーの棚から消えつつありますが)
もうひとつ黒の効果は黒を背景にするとモノの色がより鮮やかに美しく見えると言うことです。 そのためディスプレイの背景や食器などによく使われています。 例えばお寿司屋さんのカウンターや懐石料理の皿などに黒を使うと、食材をより高品質かつ美味しそうに見せます。目で食す日本食文化ならではの粋な配色です。
不況期に売れる黒
過去の流行色の変遷とその社会背景は別の機会にするとして、今の色彩を取り巻く状況をみてみると。
100円ショップが流行る一方で相変わらず高級ブランドが売れる二極化現象は色彩面にも現れています。多色と白、黒、グレー、ベージュなどの定番色が同時に売れる状態です。 景気が悪くなると時代のカラーイメージはグレーや暗い濁色ですが、明るい未来を期待してか明るい色に人気が出ます。 ファッションに関しては不況時には黒が売れるとも言われています。ただし、黒の流行は今のところずっと続いていますので、景気との関連だけで考えるのは難しいかも知れません。。
デフレの勝ち組といわれた、ユニクロやマクドナルドが苦戦する中、流れは「デフレとの決別」へ、ワンランク上に向かっているようです。
時代は高級感・ワンランクアップの演出に
ファミリーマートが木目を基調に黒・白・グレーなどの無彩色と、コーポレートカラーの緑をベースにシックな雰囲気の新しいコンビニスタイル「ファミマ!!」をオフィスビルに出店して好評を得ています。 従来のコンビニが白く明るい空間で商品が軽く見える(これは買い易さににもつながる)のに比べ、落ち着いた雰囲気は商品をより引き立てる効果があります。 陳列する商品もワンランク上だけれど高くても楽しい雰囲気がリピーター率を伸ばしているということです。
ファーストフードのロッテリアもロッテリアプラスという新しい店舗を出店しています。 赤と黄色のファーストフードの代名詞のような色使いをさけ、コーポレートカラーのひとつであるオレンジを明るく柔らくし、ナチュラルなイメージのある黄緑と組み合わせています。これも従来のファーストフードのワンランク上のくつろぎを提案しています。
ロッテリアは1年前にもメインターゲットを若い女性にシフトし、店舗の外観や紙袋の思いきったリニューアルを打ち出しています。シースルーの樹脂製の袋にモノトーンを基調としたデザインはオシャレで「これはいける」と思ったのですが、全国展開しなかったという事は今一つターゲットをつかみきれなかったのでしょうか。 かつての勝者マクドナルド自体、値下げ、値上げを繰り返し、消費者も迷っていた時期かもしれません。 そういえば、昨年リニューアルした西新商店街のマクドナルドも白を基調にし、白いフロストガラスの壁で店内が丸見えにならないようにしている点など、ここでもまたワンクラス上をめざしているようです。
05.4.12
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