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上海レポート(4)ーー中国にありそうでないもの。


◆中国市場攻略の秘訣は
◆マーケティング


 新しいものと古いものが入り交じった国ーーそれがある意味、中国の独特の魅力にもなっている。
 中国の中では最もハイセンスで流行の発信地であり、欲しいものは何でも手に入る
上海の街も、一歩裏通りに入れば古い昔ながらの風景が見られるし、ちょっと郊外に出れば道路は舗装されてないし、上半身裸で仕事をし、昼時ともなると戸口に立って丼飯を食べている男達の姿が目に飛び込んでくる。

 だが、そんな風景を見たからといっても何も驚くことではない。ほんの10数年前までは日本の各地でごく当たり前に見られていた風景である。
 しかし、我々日本人は忘れっぽいのか、それともバブル前の日本は日本でないと思ってしまったのか、自分達の昔の姿を消し去りたいのか、あるいはそのいずれもなのかもしれないが、懐かしさとはほど遠い目で眺める人が多いのは残念だ。

 中国に対する見方は生産拠点として見るか消費マーケットとして見るかによって捕らえ方はまるで変わってくるが、今後はますます中国をマーケットとして見る見方が増えていくのは間違いないだろう。
 その場合、重要なのはターゲットをどこに設定するかである。多くの中小企業が市場で失敗するのはこのターゲット設定が出来てないからで、漠然とモノを作り、漠然とモノを売ろうとしている。
 その結果、「売れない」とこぼしているが、むしろ売れないのが当たり前で、売れた時は「たまたま売れた」だけで、「売った」わけではない。ところが、この自明の理を意外に理解していない。だから相変わらず市場の分析(マーケティング)をせずに漠然と商品を流しているのだ。

◆オートバイ生産大国の中国で
◆オートバイが売れない謎


 それはさておき、中国を見る時多くの人が戸惑うのは時代の最先端的なものがあるかと思えば、随分時代遅れのものがあることだけではない。アクセルを踏みながらブレーキをかけるような政策が随所に見られるからである。これでは判断に困る。評論家なら困ったというだけでいいが、現実のビジネスの社会には結果がつきまとう。判断ミス、情勢分析の誤まりは即企業に莫大な損害を与えることになるから怖い。その好例が自動2輪、オートバイである。

 タイやベトナムでは古くからオートバイが大活躍しているのはよく知られている通りだ。渋滞で動かない車列を縫って走るオートバイは重要な交通手段である。しかも、車に比べれば価格が比較にならないほど安い。全体の所得水準が低い国の国民が最初に手に入れる交通手段としてオートバイほどピッタリなものはないだろう。

 中国でもタイやベトナムと同じようにオートバイが売れる。そう、各メーカーが判断したとしても誤りではない。
 ところが案に相違して、中国にはオートバイはあってよさそうだが、実はないのだ。
 といって、中国でオートバイを生産していないのではない。むしろ逆で、中国はオートバイの生産大国である。にもかかわらず、中国国内ではほとんどオートバイを買うことができないのだ。いや、正確に言えば、買うことはできるが、買っても乗ることがほとんどできないのである。

 実際、北京や上海などの大都市でオートバイが走っているのを見かけた人は少ないはず。せいぜい見られるのは大都市の郊外か地方都市だが、それでもタイやベトナムで見られるような光景を見ることはできない。
 なぜなのか。それは政府がオートバイの新規登録を禁止しているからだ。
では、新車には乗れないのかというと、そうでもない。新車を買って乗れないことはないが、新規登録ができないのだ。つまり、政府がオートバイの総数規制をしていると考えれば分かりやすいだろう。
 例えば日本でも普通車を買えば車庫証明が必要になる。車庫証明が取れない車は登
録できないから、実際には買えないことになる。それと一緒だ。

◆ナンバープレート費や駐車場費用など
◆維持費が高くつく中国の乗用車


 中国の場合はナンバープレートの新規発行を禁止しているので、どうしてもオートバイを買いたければ現存のナンバープレートを譲ってもらうしかない。となると、需要と供給の関係からナンバープレートが高値で売買されることになる。
 しかし、高値で手に入れたオートバイも来年から上海市内では走れない。というのは市当局が来年からオートバイの市内乗り入れを禁止したからである。しかも、こうした動きは上海に限らず中国主要都市で広がりつつある。

 それにしても上海や北京市内では車の交通量が増えて渋滞解消が大問題になってい
るのに、渋滞解消の切り札(?)ともいえるオートバイの市内乗り入れを禁止するのだから、一見矛盾した政策のような気がする。なぜ、中国当局はこのような政策を取るのか。
 理由は環境対策である。
改革開放政策の影響で沿岸部の経済は急発展したが、その陰で深刻な環境汚染に悩ま
され、最初にやり玉に挙がったのがオートバイの排ガスというわけだ。
 すでに90年代から中国主要大都市での新規ナンバープレートの発給を中止しているが、今年になって規制をさらに強めている。
 ところが、その一方で中国はオートバイの生産大国である。つまり、現在、中国で生産しているオートバイはすべて輸出用というわけだ。自国で乗用を禁止しながら輸出をどんどんする。ちょっと妙な気もするが、それが現在の中国でもある。

 いずれにしろ、環境汚染と大都市における交通渋滞は非常に深刻で、この二つの解決が最大の課題になっている。
 特に上海市は市中心部の面積が狭い上に車が多いため、朝夕のラッシュ時は東京並みの渋滞だ。仮に車を買っても駐車場不足で自宅周辺に車を止める場所も少ないし、市内の駐車場も少ない。
 車両価格そのものは下がってきているため買いやすくなっているが、その一方で車両維持費が相変わらず高い。というのはオートバイと同じように乗用車の場合も高いナンバープレート費がかかるからだ。
 上海、北京市などの当局はナンバープレートの発給を毎月一定数に限定し、車の増加に歯止めをかけることで、排ガス規制をしようとしているのだ。しかし、国民の車所有意欲は増すばかりで、ほとんど効果を発揮していないというのが実状だ。

◆スクーター似の電気自転車が急増
◆背景に厳しい排ガス規制


 しかし、徹底した排ガス規制は市場に新しい産物ももたらしたようだ。
最近、中国でスクーターが急増しているのだ。オートバイは規制してもスクーターは別なのか、それとも渋滞緩和のため2輪車に対する規制を緩めたのかと思ったが、そうではなかった。
 実はスクーターと思ったのは電気(電動)自転車だったのだ。
外観はスクーターそっくりで、前カゴもあれば後の荷台には荷物入れまで付いている。どこから見ても日本で見かけるスクーターだが、注意してよく見ると、なんと自転車のペダルが付いているではないか。
そう、スクーターと見えたのは電気(電動)自転車で、いま、中国ではこの電気自転車が大流行なのだ。
 見るからに電気自転車と分かるものから、ペダル部分を外してしまいちょっと見た目には電気自転車と分からないものまで種類は様々だ。
 最近、価格が安いものなら1,800元前後(というから日本円で25,000〜26,000円)まで下がったので非常に買いやすくなり、急激に普及しつつあるようだ。
 といっても彼らの収入に比べれば、決して安い買い物ではないが、乗用車は買えなくてもこれなら買える。しかも、便利だ。おまけに政府からとやかく言われはしない。
というわけで、周辺都市では自転車を電気自転車に乗り換える人が急増しているというわけだ。

 環境問題でもう一つ注目されているのが電気自動車だ。中国では08年の北京オリンピックに向けて電気自動車の実用化に向けた動きが急ピッチで進んでいるが、電気自動車の実用化では中国が一歩先を行くかもしれない。
 このように遅れた部分と最先端が混在している中国だが、今後、中国を見る上で「環境」がキーワードの一つになるのは間違いなさそうだ。


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