シンドラー社製エレベータは一体どうなっているのだ、と思うぐらい次々にトラブルの報告がなされている。
同社は世界的には有名な企業らしいが、国内に限って見ればシェアはわずか1%程度である。
にもかかわらず同社製エレベーターによる事故やトラブルが全国で421件(朝日新聞)というのは、どう考えても多すぎる。
最も多いのは静岡県の78件。次いで長崎県の60件だというからビックリ。
それにしても不思議なのは、これだけのトラブル件数がありながらいままで明らかにされなかったことだ。もっと早くトラブル状況を把握し、何らかの手をシンドラー社に対して打っていたなら、もしかすると痛ましい死亡事故は防げたかもしれない。
行政の対応はいつもそうだが、何か大事件・大事故が起こってはじめて動き出す。
今回も同じで、特に静岡、長崎県などはこれだけのトラブルがありながら大事故が起こらなかったのがある意味不思議なぐらいだ。
シンドラー社の責任はもちろんだが、行政の怠慢、危機管理能力も同時に問わなければならないだろう。
もう一つの不思議は、事故・トラブルの分布がほぼ全国に広がっていることである。
つまり同社製エレベーターは全国に設置されているということだ。
しかも、東工大や九工大などの大学や都庁、都営・県営住宅、さらには地下鉄内など官公庁関係に集中している。
これは何を意味するのか。
官公庁の工事は入札で決まる。
つまり同社が落札しているということであり、入札価格が安いということである。
東京都に限ってみれば入札予定価格の80%でシンドラー社が入札・落札しており、これを下回ると受注できない「最低制限価格」だった。
なぜ、それほど安くできるのか。
同社は「資材のストックや、据え付け工事をする業者の協力で安くできる」と説明しているようだが、ここに問題がありはしないか。
その象徴的な出来事が次の例だ。
エレベーター内に閉じ込められた人が非常電話で連絡すると、電話を受けたシンドラー社の電話センターが、ここは電話センターだから管理人室か管理会社に連絡してくれ、と言われたというではないか。
中に閉じ込められている人が助けを求めているのに、私の所ではなくよそに電話しなさいと言うのだ。それでは非常電話の役に立たないばかりか、この対応は人道上も許されないだろう。
電話を受けた個人の問題はもとより、そういう教育・体制を敷いているシンドラー社の体質の問題といえる。
結局、今回の事故でも明らかになったのはコスト最優先主義の弊害である。
コストを優先するばかりに品質管理、安全管理を疎かにしてきたというか、品質管理・安全管理の犠牲の上に成り立っているコスト優先主義が、いま世界中に蔓延している。
製造・メンテナンス側もコストなら、導入する側もコスト、コストで、メンテナンス契約を安い価格を提示した別会社にしたり、1年おきに交代するなど価格にばかり目が向いていはしないか。
もう一度、安全・安心を含めたトータルコストについて我々皆が考え直した方がいい。
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