当初懸念したことが現実になりつつある。
シンドラー社製エレベータの事故報告が日に日に増えている。
同社製エレベーターは46都道府県に8,834基あり、その内事故やトラブルがあったのは33都道府県の218基で、件数は421件。もしかするとまだ増えるかもしれない。
それにしてもここまで増えてくると、他社製エレベーターは大丈夫かと不安になる。すると案の定というか、やはりというかシンドラー社製以外のエレベーターでも閉じ込められたり不具合があったという報告が427件も出ている(14日現在)。こうなると安心してエレベーターに乗れなくなる。
なぜ、このような事故が起こったのか、問題はどこにあるのか。第一施設工業(株)(福岡県粕屋郡新宮町)の篠原統社長に専門家としての見解を聞いた。
同社はクリーンルーム内で稼働するリフター(昇降機)の世界シェア80%以上を誇る企業で、最近は「非接触搬送装置(Magic Move)を開発し、世界の半導体メーカーから注目されている。
従来(現在でもそうだが)、クリーンルーム内では基盤の水平搬送が一般的である。それを基盤を立てたまま、それも非接触で運ぶ縦型搬送という考え方を導入することにより省スペース、ロス率の減少を実現した画期的な次世代搬送装置である。
すでに昨年から一部メーカーで採用され、今後の躍進が期待されている同社だが、会社設立時はエレベーターの据え付け工事やメンテナンス事業が中心だった。
その後、毎分260mで昇降する日本最速のリフト「ハイリフター」を開発。しかも自動化ラインやクリーンルーム内で稼働するリフターには高い制止精度が要求される。そのような昇降機を作ってきた同社では今回のエレベータ事故をどう見ているのか。
−−今回のシンドラー社製エレベータの事故についてどう思いますか。
篠原 本来起きない事故が起きているという感じがする。シンドラーは日本でこそあまり有名でないが、世界2位のエレベーターメーカーですよ。ただ、スイスのシンドラー本社と日本シンドラーの対応に差があるのではないだろうか。というのは、日本シンドラーは元々日本エレベーターという会社が前身で、それをシンドラーが買収し日本法人にしたという経緯がある。企業風土はそう簡単に変わらないので、日本エレベータ時代の古い体質のままなのではないだろうか。
−−今回の人身事故の原因箇所はどの辺りだと見ていますか。
篠原 状況を見ていないので分からないが、言われているように制御盤の基盤ミスではないか。ただ、トラブルの中にエレベーターが暴走し天井にぶつかったというのがあった。あれは据え付けミスではないかと思う。エレベーターはロープのもう一方の端に重りがあり、重りが下がれば箱が上がるようになっている。だから先に重りが地面に着くはずで、箱が天井にぶつかることはない。それがぶつかったというのは据え付けミスの可能性がある。
今回の事故でもそうだが、メーカの責任とメンテナンス会社の責任は分けて考えなければいけない。
エレベーターは年1回、法定点検が義務付けられているが、この時は昇降機検査資格を持った検査士が行うが、それ以外の保守点検は検査士の資格を持たない無資格者でもOKということになっている。仮に保守点検も検査士が行っているとしてもメーカーの検査士とメンテナンス会社の検査士では、残念ながらレベルが違う。メーカーの方はそれだけの時間と金を使って教育できるが、メンテナンス会社ではそこまでできないところが多い。
ーーつまり同じ検査士でも技術レベルが各社バラバラだと。
篠原 そういうこと。これは規制緩和の弊害の部分だが、いままではメーカーがメンテも行っていたが、規制緩和でメンテは別の会社でもよくなった。それはいいことだけどメーカーはメンテの仕事を譲りたくない。コピー機などでもいまはハードよりコピーした紙の枚数で儲ける時代になっている。あれと同じでメンテが稼げるから他の会社がメンテを取ったとき部品を出さないというか、部品の出荷時期を意図的に遅らせたりする。
ーーメーカー以外から部品は買えないんですか。
篠原 エレベーターの部品は各社皆違う。汎用品みたいなものはロープ程度しかない。自社設計部品だからメーカーは他社に売りたくないんです。
車の部品はどこのメーカーのものでも販売している部品屋があるでしょ。ところが、エレベーターの部品屋は存在しない。だからメーカーの力が強く、嫌がらせをする。
メーカーもね、どうぞ我が社で1週間なり研修してください、とメンテ会社に言うぐらいの懐の深さが必要ですよ。
最近は技術がどんどん進化しているものだから技術のブツ切りというか、技術者も自分の狭い専門領域のことは詳しくなっているが、トータルで見れなくなっている。ここにも問題があるんです。機械に強いやつは例えばブレーキをチェックするが、電気は弱いから制御盤の方は見てもあまり分からないとかね。
それと今回の事故に関していえば、メンテ会社からメーカーにトラブルのフィードバックがきちんとなされていなかったのではないかと思う。社内の体質の問題もあるように感じる。企業風土が影響しているよね。
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