治療方法で差がない前立腺ガンの死者数(1)


栗野的視点(No.802)                   2023年6月30日
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治療方法で差がない前立腺ガンの死者数
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 生検で前立腺ガンと診断されてから5年が経過した。前立腺ガンは進行が遅いと言われているが、積極的な治療法を選ばず経過観察を続けている患者は、私がかかっている中央病院の主治医の下では私以外にはいないようだ。

監視療法とその他で結果に差なし

 ガンの場合はよく「5年生存率」ということが言われるが、実はこれ、あまり参考にならないらしい。詳細は省くが前提が違えば結果が違ってくるわけで、ガンの初期段階だけでなく、罹患したときの年齢が若ければ5年生存率は100%近くになるし、発見された時がステージ4なら5年生存率は低くなる。
 つまり5年生存率を高めるためにはできるだけガンを初期段階で発見すればいいことになる。近年、5年生存率が上がっていると発表されているのは治療で治る率が上がったこととイコールではないのだ。にもかかわらず早期発見=ガンが治る率アップと思わせているのは医療機関のミスリードだが、医師もそのことに敢えて触れないのか、それとも医師自体も誤解しているのか。
 いずれにしろ「5年生存率」の数字に騙され(?)てはと言うのは言い過ぎかもしれないが、その数字に振り回されるのはやめた方がいいだろう。
 もちろん「早期発見」の効用を否定しはしないが、ガンの種類にもよると同時にメリットと同時にデメリットもあるということをきちんと伝えることが必要だろう。

 前立腺ガンの話に戻そう。つい最近、イギリス・ブリストル大学社会医学部が行った臨床試験の結果が欧州泌尿器科学会で発表され、次のような論文が「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に掲載された。
 かいつまんで説明すると「限局性前立腺ガン」(ガンが前立腺の中だけにとどまっている状態)と診断された1643人を
 A.監視療法を受けるグループ
 B.前立腺を切り取る手術を受けるグループ
 C.放射線治療を受けるグループ
 に分け、15年間追跡調査をし、各グループごとの死亡者数、死亡率を調べたところ、各グループ間に有意な(統計的に意味のある)差はなかった。

 これは従来の「常識」を覆す結果であり、75歳以上では前立腺ガン手術をしても、しなくても残りの生存日数は変わらないといわれていたことを証明しただけでなく、前立腺ガンと診断されても慌てて手術や放射線治療という積極的な方法を選ばなくてもいいということだ。

 もう少し詳しく見ておこう。
こういうデータの場合、重要なのは臨床試験の規模である。研究室の中で行われたものなのか、大規模に、しかもある程度長期間に渡って追跡調査されたデータなのかによって信頼性がまるで異なる。
 次に前提条件の取り方が同じかどうか。そして人数と率である。
前提条件は「限局性前立腺ガン(局所限定前立腺ガン)」と診断された患者に限っており、その患者の死亡者数と死亡率が次のようになっている。
 A.監視療法グループ17人(3.1%)
 B.手術グループ12人(2.2%)
 C.放射線治療グループ16人(2.9%)

 上記の数字は前立腺ガンで亡くなった人の数だが、それ以外の死因の人もいるわけで、それらすべての死因を含めた死者数はA.124人(16.2%)B.117人(15.02%)C.115人(15.0%)で、顕著な違いはなかった。
 さらに15年生存率で見ると
 A.96.6%
 B.97.2%
 C.97.7%
 と、これも有意な差はなかった。

 この結果は驚くべきことで局所限定前立腺ガンの場合、年令に関係なく、積極的な治療をしてもしなくても生存年数に変わりはないということだ。                                  (2)に続く


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