栗野的視点(No.726) 2021年3月2日
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ベゾス、森、鈴木、3人の退陣から考えること
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今年に入って3人のトップが、君臨した組織の第1線から退いた。2月2日にアマゾンのジェフ・ベゾスCEOが、同月12日に東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が、そして同24日にスズキの鈴木修会長がそれぞれ退任を発表した。
アマゾンで大富豪になったベゾス
CEO退任後は慈善事業に注力する
期せずして3人が2月にそれぞれの組織の第1線から退くと発表したわけだが、世界を最も驚かせたのはジェフ・ベゾスCEOの退任、会長への就任発表だろう。他の2人が83歳(森)、91歳(鈴木)と高齢なのに対し、ベゾス氏が57歳という年齢も目を引いた。
アマゾンのCEO退任と言っても引退するわけではなく、彼自身がアマゾンの従業員宛てに送ったメールで述べているように、今後も「アマゾンの重要な取り組みに参加し続ける」が、より多くの時間とエネルギーを集中して「Day One ファンド、ベゾス・アース・ファンド、ブルー・オリジン、ワシントン・ポストその他の仕事」に注力するとしている。
注目したいのはDay One ファンドとベゾス・アース・ファンドを、注力したいことの1番、2番に上げていることだ。Day One ファンドはホームレスの家族向け施設を運営する団体支援と、教育分野の支援を行うためのファンドであり、ベゾス・アース・ファンドは気候変動対策のための基金で、前者は2018年9月に20億ドル(約2240億円)を投じて設立。そして後者は2020年2月に100億ドル(約1兆500億円)の私財を投じ設立すると発表し、8月から環境問題に取り組む科学者や環境活動家、NGOなどに資金提供を始めている。
驚くのは25年連れ添ったベゾス氏と離婚したマッケンジーさんが自身の保有資産360億ドルの半分を慈善事業に寄付すると発表したことだ。昨年12月、384の団体に42億ドル(約4300億円)近くをすでに寄付しており、今年は寄付のペースを速めるとも言っている。
マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏も退任後、夫婦で慈善財団を設立し、環境問題等に資金を提供していることで知られているが、ベゾス氏の場合、マッケンジーさんの影響が大きかったのではないと思われる。
それはともあれ、アメリカの大富豪達は在任中から、あるいは退任後に慈善活動を行う人が結構多い。
慈善事業より私欲と権力
ゲイツもベゾスも現れない国
翻って我が国ではどうか。あまりそういう話は耳にしないが、数少ない例ではユニクロの柳井正代表取締役会長兼社長やソフトバンクの孫正義代表取締役会長兼社長が東日本大震災後に10億円、100億円寄付、また2020年6月に柳井氏が京大に100億円寄付がある。
ビル・ゲイツ氏、ベゾス氏と比べれば額が1桁2桁小さいなどと金額の多寡を問題にするつもりはない。額よりは継続した慈善活動を望みたい。彼らが率先して行えば、この国にも寄付の文化が定着するのではないだろうか。
どうもこの国の経営者たちは「越後屋」とは言わないが、金を儲けることと、権力を持ち続けることに執着し過ぎるようだ。
50代でのバトンタッチなどとんでもない、60代、70代になってもまだ権力に執着しているトップが多い。代表取締役会長兼社長なんてのは後継者育成に失敗したと自ら公言しているようなものだと思うが、そのあたりの意識はないらしい。中には相談役になっても代表権を握ったままで、代表取締役相談役という肩書を平気で付けている人もいるが、恥ずかしくないのだろうか。
ああ、そう言えば柳井氏も孫氏も一度、社長職を譲ったことがあった。しかし、気に食わなかったのか、男のヤキモチからか、短期間で権力を奪取し、再び自らに全権を集中させ、「代表取締役会長兼社長」に就いている。このまま進めば仮に相談役に退いたとしても代表権を持ったままで、代表取締役相談役を名乗っているのではないか。
両氏ともにジェフ・ベゾス氏はもちろんのことビル・ゲイツ氏の生き方に倣うつもりはないようだ。因みに現在、柳井氏は72歳、孫氏は63歳である。
もしかすると柳井氏が倣おうとしているのはスズキの鈴木修会長ではないか。鈴木氏は現在91歳。今年6月の株主総会以後、代表取締役会長を辞し相談役に退くと発表したが、氏は1977年から代表権を持ち続けているから、実に44年も同社のトップとして君臨し続けてきたことになる。
「企業30年説」が言われているというのに40年余りも1人の人間がトップに君臨し、実権を握り続けるというのは異常だ。これが企業ではなく国のトップなら明らかに独裁者と評されている。
スズキ中興の祖、カリスマ経営者かもしれないが、見方を変えれば後継者の育成に失敗し、40年もバトンタッチできなかったわけだから必ずしも誉められた話ではない。
今後は相談役に退き、取締役も辞すると言うが、91歳という年齢を考えれば当然で、むしろその年齢まで君臨させ続けた組織の方に異常さを感じる。カリスマ経営者がいなくなった後の組織運営は大丈夫なのだろうか。
後を託された鈴木俊宏社長にしてからがすでに61歳。もう冒険はできない年齢で、彼の仕事は10年以内に後継者にバトンタッチをすることだが、それがうまくいけるかどうか。
過去の歴史を見てもカリスマ的な指導者が長く実権を握ぎれば握るほど、その後がうまく行った試しがない。スズキがそうならないことを望むが、後が心配なのはユニクロの方かもしれない。余計なお世話か。
老害を許す体制・体質こそ問題
最後の森喜朗氏については今更触れるまでもないだろう。散々マスメディアで取り上げられ、最後は「石持て追われる」とは言わないが、辞任に追い込まれたのは不本意だろう。それというのも権力を手放そうとせず握り続けた結果、晩節を汚すことになってしまった。
森氏の発言は「女性蔑視」と言うより「若造は黙って従え」という、今の政治の世界に蔓延っている独裁者体質で、それこそが問題だろう。
独裁体制が長く続けば野犬も牙を抜かれて「家豚」になり「公儀」や「お上」に逆らえなくしたのは徳川政権を省みるまでもないだろうが、安倍政権は「お友達」にアメを分け与え、菅氏はムチで官僚を「家豚」にしてきた。
そのツケが今回ってきているようだが、政治家に必要なのは理念で、理念なき政治家の末路は独裁者の末路と同じように哀れなものだろう。
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