単純ミスは成熟期に増える−−。
多くの場合、導入期や普及期ではなく、そのものが広く行き渡った成熟期にこそ単純ミスが増える、というのが社会的法則である。
その物やことが広く行き渡っている成熟期には誰もが普通に行ったり扱ったりしているから単純ミスなど起こりえないと思われるが、実はそういう時にこそ単純ミス(それに分類されるミス)が増えるというのだ。
私が社会人に成り立ての頃、当時、社長から教えられたことに「木登りの名人は地上まで後1メートル、数10センチという時に初めて『用心しろ』と声を掛ける」という話がある。
見ている人達が危ないと思うような高いところに登っている時は黙っているのに、もう飛び降りても安心という高さまで降りてきた時に、初めて「用心しろよ」と声を掛けるというのだ。
同じ声を掛けるなら高いところに登っている時に「危ないぞ、用心しろ」と言って欲しいと思うが、その時には黙っていて、誰が見ても、ここまで降りてくれば後は目を瞑っていても大丈夫という時になって声を掛けても意味ないだろうと、当時、その話を聞きながら思ったものだ。
ところが名人の考えは違った。
高くて危険なところに登っている時は本人が一番用心している。ところが、後少しで地上という高さにまで降りてくると本人も安心する。そこに油断が芽生え、落ちて怪我をすることが多い。だから、その時に注意するのだ、と。
さすがである。
数日前、石油連盟が来年度の職員採用試験で不採用になった人達に通知メールを送った。
採用通知なら一人ひとりに送るのだろうが、不採用通知なので不採用者全員にまとめて送信したのだ。
このこと自体は問題ではない。
ところが、送り方に問題があった。
受信者全員に、送られた人のアドレスが分かる形で送ってしまったのだ。
これは単純ミスという形で処理できるようなものではないが、最近こうしたメールの送信ミスが増えているので、注意を喚起したい。
複数の相手に一度にメールを送る方法は3つある。
1.いままで通り「宛先」欄に全員の名前(メールアドレス)を入力(コピー)して送る。
2.「CC」欄に全員の名前(メールアドレス)を入力(コピー)して送る。
3.「BCC」欄に全員の名前(メールアドレス)を入力(コピー)して送る。
この3つの送信方法はどこが違うのか。
1と2の方法はメールを送った相手に送り先全員の名前(アドレス)が見える。
3の方法は送り先の名前(アドレス)が見えない。
「CC」はカーボンコピーの略であり、「BCC」はブラインドカーボンコピーの略。このことから「BCC」は宛先が目隠しされていると分かるだろう。
実はこの半年間に石油連盟が犯した今回のミスと似た方法で3箇所から配信されてきた。
メールが日常的な連絡方法、通知方法になり、誰もがメールの送受信を行うほど普及してきたから、こんな送信ミスをする人はいないだろうと考えていたが、その考えは見事に裏切られた。
まさか1の方法で複数の相手に配信する人はいないだろうと思っていたが、それも見事に裏切られた。
なぜ、こんな初歩的なミスを犯すのだろうと思ったが、早い話が彼らはメール送信の仕組みを知らなかったのだ。もちろんメールのマナーも。
恐らくいままでのメール送受信は1対1で、複数の相手に同じ内容を一度を送ったことがなかったに違いない。
要は知らないが故に犯したミスである。
しかし、注意しなければいけないのは、そのことが引き起こす結果である。なかにはビジネス的に大きなダメージを受けることもあるかもしれない。それだけに注意が必要と思うが、案外軽く考えているように見受けられる。
たとえば石油連盟が犯した今回のミスなどは損害賠償を訴えられる可能性もある。
ところで1と2の方法で送った場合、メールを受信した人はそのメールが他にどんな人にも送られたのか、送られた相手の名前やアドレスが丸見えなのはもちろんだが、送信者が各人をどういう登録名でアドレス帳に登録しているのかさえ見えてしまうのだ。
例えば「栗野」だったり「栗野良」、「リエゾン栗野」「栗野(ジャーナリスト)」「栗野さん」「栗野(男)」等々。
こういう時、無難な登録であればいいが、失礼に当たるような登録名だとビジネス上影響しないとも限らない。
実際、私に送られてきた中で、ある人は「○○様」と登録してあり、別の人は「△△」、また他の人は「××さん」という形で登録されていた。
このように登録の仕方が不統一だと、どういう基準で分けているのだろうと考えてしまう。
自分の名前が「様」付けで登録されていればいいが、呼び捨てだとあまりいい気持ちはしないだろう。
いずれにしろ相手にそうした不快な感じを抱かせないためにも、一度に複数の相手に同じ内容のメールを送る時は「BCC」で送ると覚えておくといいだろう。
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